エーリッヒ・ケストナーは、ドイツの作家。日本では児童文学の小説で知られていますね。本記事ではケストナーの作品の特徴やおすすめの小説について紹介します。
目次
エーリッヒ・ケストナー作品の特徴とは?
第二次世界大戦はケストナーの作品にどのような影響を与えたのでしょうか。エーリッヒ・ケストナーはドイツのドレスデン生まれ。ドイツを代表する作家の一人です。苦労して大学を卒業した後は、ベルリンで詩人として活躍。子ども向けの『エーミールと探偵たち』で人気を得て、児童文学作家として知られるようになりました。
作品に影響したエーリッヒ・ケストナーの生きざま
ケストナーは、第二次世界大戦下のドイツで執筆活動を制限や密告による逮捕などで、苦しい生活を強いられます。それでも亡命せずに活動する道を探そうと必死に。ヒトラーを中心とした国家首脳は、国民的な人気作家のケストナーを無視できず海外での出版や映画の脚本などの執筆に登用します。ケストナーをドイツのイメージ戦略に利用しました。
詳細は下記のケストナーの伝記に書かれています。
『エーリッヒ・ケストナー こわれた時代』(偕成社)クラウス・コルドン著
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ナチスへの抵抗
ナチスに従わない多くの芸術家が迫害され、ドイツから亡命したり、命を落としたりしました。味方が少ない中でも、ファシズムを嫌うケストナーは国内に留まり続けてできる限り抵抗します。自作の書籍を燃やされる現場に出向いて、大胆に見物するなどの行動に出て高官のゲッペルスから睨まれました。
第二次世界大戦後は西ドイツ側の新聞の編集長職に就任。反核運動やナチスの復活を防ぐ姿勢が評価されます。東ドイツ側も高く評価し、ドレスデンに住むケストナーの親を手厚く保護しました。
多くの親子に愛される児童文学
詩人としてデビュー作を発表したケストナーですが、1928年に発行した児童向けの『エーミールと探偵たち』が評価されます。子どもたちの活躍を描いた『飛ぶ教室』『二人のロッテ』などを発表して大人気に。次々と映画化されて、国内外で知られるようになりました。現代でも、子どもから大人に至るまで愛読されている作品が多くみられます。
皮肉とユーモアに溢れた大人向けの著作
ケストナーは、独裁者を皮肉った作品や、鋭い視線で世相を見た作品など、大人向けの小説も発表しました。また、ユーモアに溢れた恋愛小説なども見られます。作品の中で尋問を受ける場面があり、ナチスの憲兵から呼び出しを食って厳しく事情聴取された経験を生かしているということです。
おすすめのエーリッヒ・ケストナー児童文学6選!
ケストナーの児童文学の中で、子どもから大人まで楽しめるおすすめの小説を紹介します。
『飛ぶ教室』
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本作は、ナチス統治下のドイツのギムナジウム(高等中学)を舞台にした物語です。寄宿生の5人の学生を中心に、その年のクリスマスに開催される『飛ぶ教室』の劇の稽古から上演に至るまでの話が描かれています。他の学校の生徒とのトラブル、信頼する教師の友人の謎など、さまざまなできごとを皆で解決して、学生たちが成長していく様子が印象的。
『エーミール(エミール)と探偵たち』
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この小説は、母の実家の祖母や従妹に会うために主人公のエーミールが、預かったお金を汽車で盗まれてしまう事件をユーモアたっぷりに描いたもの。主人公はベルリンで地元の少年グスタフと知り合い、泥棒探しに協力してもらいます。事件を知った地元の多くの少年達が、エーミールに助力を申し出て犯人探し。盗んだ男はどうなるのでしょうか。
『ふたりのロッテ』
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こちらの作品は、オーストリアの湖にキャンプに来た二人の女の子の活躍を描いた内容。ウィーン出身のお転婆のルイーゼと、ミュンヘン出身の穏やかなロッテは、お互いに瓜二つでびっくりします。生年月日や生まれた場所などが同じことから、双子だと確信。些細なことで仲違いした両親を仲直りさせようと、二人はある計画を実行します。
『点子ちゃんとアントン』
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ベルリンに住むルイーゼ(愛称・点子ちゃん)と、病気の母親を支える少年アントンは友達同士。点子ちゃんは裕福でも仕事や外出に忙しい両親に相手にされていません。アントンは仕事と家事を両立させて、満足に勉強する暇もないようです。点子ちゃんとアントンの友情が、幸せなエンディングを迎えます。
『わたしが子どもだったころ(ぼくが子どもだったころ)』
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この本はエーリッヒ・ケストナーの自伝。貧しい家に生まれても両親から愛されたこと、必死に家計を支えた母のことなどが書かれ、読み応えがあります。影響を受けた個性的な先生や母親との徒歩での旅行についても軽い語り口で描写されていますよ。厳しい暮らしでも前向きで明るい、ケストナーの児童文学の登場人物に似ているように感じられるかもしれません。
『どうぶつ会議』
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第二次世界大戦が終わり、平和維持の国際会議を何度開いても成果が出ないことにゾウ、キリン、ライオンが怒り心頭。3頭は北アフリカの動物会館に全世界の動物達を集めて、国際平和の会議を開催しようと決意。『子どもたちのために』というスローガンを達成すべく立ち上がります。ユーモラスな動物達の口調で読みやすく、子どもにも平和の大切さが伝わりやすいのでは、と考える親もいるようです。
おすすめのエーリッヒ・ケストナー大人向け著作6選!
大人の読者におすすめのエーリッヒ・ケストナーの著作を紹介します。
『独裁者の学校』
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本作品は、独裁者の替え玉の人間を作る養成機関をモチーフにした戯曲。独裁政権を痛烈に非難しているようにも感じられます。側近の大臣が暗殺された大統領に替え玉をすげ替えることで、政権を握り続ける様子を描写。予想外の事態で独裁政権が倒れても、状況はあまり代わり映えしません。現代でも同じようなことが起こっているようで、皮肉がきいています。
『人生処方詩集』
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ケストナーによる大人向けの詩集です。『人生において~があったときに読む』というように、読み手が生き方に迷った、解決したい悩みがあるといった場合に、『該当する詩を読むように』と作者による指示が書かれています。人によってケストナーのアドバイスが響かないこともあるでしょう。書かれた詩の情景が頭に浮かんで強く印象付けられる読者もいるようです。
『終戦日記一九四五』
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1945年(昭和20年)ドイツ帝国の末期から第二次世界大戦での敗戦までを表した日記。ベルリンから友人の手助けで逃れたオーストリアの小さな村などでの様子を描写しています。ヒトラー政権下の様子、ドイツに占領された土地の人達の行動など、軽妙な文体が余計に皮肉に満ちているように感じられますね。追記に1960年の短い覚書があり、長崎や広島への原爆投下について言及し、平和の大切さを訴えているかのようです。
『消え失せた密画』
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高価な密画を巡る冒険の話。どこか間抜けな盗賊団や謎の人物と渡り合う人の良い主人公の姿に、大人の読み手にも続きが気になり最後まで楽しめます。主人公の肉屋の親方キュルツはつまらない日常に嫌気がさし、コペンハーゲンに家出。絵画をベルリンに運ぼうとする女性に声をかけられて、ワクワクする冒険話に憧れて輸送を請け負うキュルツ。果たしてうまくいくのでしょうか。
『雪の中の三人男』
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三人の男とは、『貧乏人のふりをした大富豪』『大富豪に間違えられた貧乏人』『大富豪の命令で嫌々ながら金持ちのふりをする下男』のこと。大富豪は自社の懸賞に当選したふりをして貧乏人になりすまし、人間観察をします。ホテルでは3人の男の身分を取り違えて多くの騒動が。それぞれの男性の描写がおもしろくもおかしく、爽やかな読後感です。
『一杯の珈琲から』
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表題から予想されるように心が温まる恋愛小説です。オーストリアの国境近くに宿を取った青年ゲオルグ。ザルツブルクで余暇を楽しもうとしましたが、為替の規制があり手持ちのお金が不足する事態に陥ります。オーストリアの友人に用立ててもらおうとしても会えずに、コーヒー一杯の代金を払うこともできません。居合わせた美しい女性に支払いを頼んだのがきっかけとなり…。
すべての世代におすすめ!エーリッヒ・ケストナーの作品!
エーリッヒ・ケストナーは子どもから大人まであらゆる世代の人におすすめ。児童文学の読み聞かせをしたり、子どものころを懐かしんで読み直したりするのもいいでしょう。児童文学にはない恋愛やユーモア溢れる小説を気軽に頼むのもいいでしょう。戦争下の記録や平和の大切さを説いた作品を通じて、ケストナーが伝えたかったことを考えるのもおすすめです。