『蜻蛉日記』は平安時代に書かれた日記文学です。夫と大勢の妻のうちの1人の女性との20年間の結婚生活を書いた書物です。詳しい内容を知らないという人は多いのではないでしょうか。本記事では蜻蛉日記の書かれた内容を紹介しながら、あらすじを簡単に掲載しています。
目次
蜻蛉日記とは?
蜻蛉日記のあらすじを説明する前に、作者と作品を書いた理由とその背景について紹介します。
作者は『藤原道綱母(ふじわらのみちつなのはは)』
作者は別名『右大将(うだいしょう)道綱母』とも言われています。本名はわかっていません。彼女は美人と評判の高い女性です。夫は藤原兼家(かねいえ)です。関白家が最も栄えた藤原道長(母は正室の藤原時姫(ときひめ))の父親に当たります。
藤原兼家とは、同じ藤原氏でも作者のほうが受領階級で家柄が低いです。性格はプライドが高く嫉妬深いのが玉にきず。和歌の名手として名高く、小倉百人一首にも選出されています。
『蜻蛉日記』を記した理由
浮名を流す夫との苦労の多い夫婦生活について、周囲の人に記録を残すために蜻蛉日記を記したとのこと。日記文学という形式を取りながら、過去の夫の仕打ちなどを確認しながら筆を進めたようです。一夫多妻制ではあるものの、浮気ばかりする夫の姿を通じて、正妻と自分より後に結婚した女性を重んじている怒りや、自分への寵愛が薄れていくのを悔しく感じているさまを描いています。
一夫多妻制…通い婚は妻に負担
一夫多妻制とは妻問婚とも呼ばれ、権力者の周囲に正妻や妻などの家に夫が通いながら婚姻生活を進めていきます。女性に飽きられたら捨てられることもあり、逆に妻に見限られる例もあるようですね。
いくら美人で歌がうまくても、プライドが高い作者。段々と他の女性と親しくなり、可愛げが感じられない作者との距離は遠ざかる一方。作者は正妻と張り合っていた様子が見え隠れし、周囲の人と良好な関係を築くのが苦手な様子も伺えます。
蜻蛉日記のあらすじを簡単に紹介!
上中下巻の3部構成で、上巻は15年間、中巻と下巻はそれぞれ3年間を描写。上巻は作者と夫や登場人物との歌のやり取りが見られ、浮気をしてもそれなりに大切にされていた様子。しかし、中巻は作者が寂しく和歌を独泳する場面が目立ちます。下巻は身辺に起こった雑記、とくに印象深い出来事を中心に表記。夫との距離がだいぶ開いて孤立を深めた印象です。
上巻『結婚生活とライバルの女たち』
藤原兼家が受領階級の貴族の娘にあたる作者に求婚して、父が身分違いで恐れ多いと感想を漏らすところから始まります。結婚をして順調で幸せな作者。自分にとって初めての子ども道綱を出産。しかし、出産の頃になると同時に浮気を重ねる夫は、朝廷に用事があるから訪問が難しいと言いつつ、町の小路の女を寵愛し子どもを産ませます。
町の小路の女は夫に捨てられてすっかり零落したと耳にし、いい気味だとライバルの様子にほくそ笑みました。さらに、夫の正妻の藤原時姫に、『おたがいに浮気されてつらいですね』と同情するような嫌味な歌を贈ったら、正妻に『(正妻ではない)作者自身も浮気相手に過ぎないでしょう』と返歌でやり込められることに。
つまらないことで夫婦喧嘩をして、夫が「もう行かない」と言い、子どもの道綱が泣いてしまう事態に。数日間、音沙汰がなくなります。このような状態で正月を迎えます。この頃の作者は、夫の仕打ちに苦しみながらも、兼家の邸宅の近くに転居し、病後の夫の見舞いに訪れるなど、周囲から重要な妻として尊重されている印象です。
巻末で、15年の結婚生活の総括。年が明けても夫への悩みが尽きずに嘆いてばかりの頼りない身の上が、まるで儚く消えやすい『かげろう』のよう。そのため『蜻蛉日記』と名付けたと記されています。
中巻『夫との距離と道綱』
年明けは和やかな歌のやり取りを夫としあい、つかの間の幸せを味わう作者。息子の道綱は弓を競う宮中行事で活躍します。息子の勝者の舞の披露も素晴らしく、作者はもちろん、大いに夫も喜んだ様子。
しかし、夫との距離ができつつあり、その後は1か月あまり訪問が途絶えてしまいます。夫との不和に悩み、道綱に『尼になって執着を断ち切ろうか』と相談。すると、道綱は『母上が尼になるなら、自分は僧侶になる』と言い出し、泣き出してしまう始末です。夫からは「今は忙しい」と返歌はあるものの、自宅には立ち寄らず、他に浮気相手がいるようです。
めずらしく門前に夫が訪ねて来たようで、作者は気分を悪くして返事をしないという仕返しを。夫は作者を待つことなくいなければ仕方ないと他の女の家に行ってしまいます。
機嫌を損ねて寺で勤行をしていると、『出家をしていないなら、世間の笑いものにならぬよう早く戻るように』と。夫の使いから叱責。夫や作者の父親をはじめいろいろな人がごちそうなどを持って説得し、出迎えにきます。結局、作者は住まいに戻りました。
下巻『子どもたちを生きがいに』
夫の兼家は大納言に昇進しました。作者が『お祝いの言葉を伝えない』と、久方ぶりの訪問で夫から恨み言。作者は『あまり来てもらえないので、戸締まりをしっかりしていた』と嫌味を言います。
道綱以外に子どもが生まれないため、兼家が他の女に産ませた娘を養女にする決心をする作者。夫が訪ねてきた折に可愛らしい女児を紹介し、彼の娘という素性を隠して会わせると夫が喜びをあらわにします。一方、実子の道綱には気になる女性が現れ、短歌のやり取りをするが失恋した様子。
しかし、夫との仲は冷える一方。兼家は『近江の女』との付き合いを盛んにし、ますます彼女への訪問が減っていきます。あまりにも仲が悪くて、兼家の屋敷のそばから父の住居、都の端の広川を超えた場所に引っ越す作者。川を超えてまで作者のもとに来ることはすっかりなくなってしまいました。
蜻蛉日記のあらすじを掲載した書籍
『蜻蛉日記』のあらすじは、原文だけではなかなか理解しづらいでしょう。現代語訳が掲載されている書籍を紹介します。
『蜻蛉日記 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典』(角川ソフィア文庫)
あらすじを理解しやすく、古文の読解を難しく感じる若い世代、あまり原作を読み慣れない大人におすすめです。現代語役と原文、補足説明を書いたコラムが掲載。あらすじとそれぞれのエピソードの背景がわかりやすいです。
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『現代語訳 蜻蛉日記』訳…室生犀星 (岩波現代文庫)
作品の持つ原文の雰囲気と現代語訳を深く味わいたい人におすすめ。注意書きなどがなく、すっきりと読みやすいと評価する人も。夫との関係に悩む女性の姿が描写され、作者の苦悩が強く浮き彫りになっています。
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蜻蛉日記のあらすじで描く!男女の行き違いの悲しみ
蜻蛉日記のあらすじを見ていくと、一夫多妻制の妻側の苦しみがあぶり出されています。作者はプライドが高く美人で歌も上手な才色兼備の女性。夫の藤原兼家は時の権力者で名うてのプレーボーイの男性です。
嫉妬で恋の駆け引きをしようとも、夫は他の女性と浮気をする始末。むしろ、正妻や後から付き合い始めた有能な女性が、尊重される悲しみをひしひしと感じます。あからさまに日記文学として後世に残し、自分の無念をどうしても伝えたいという強い気持ちが彼女を創作に突き動かしたのでしょう。