書籍購入補助は、社員が仕事や自己啓発のために買った本の代金を、会社が全額または一部負担する制度です。「書籍購入支援制度」「読書手当」「図書購入補助」など、会社によって呼び方は違います。
制度を作るときに決めるのは、対象者、対象にする本、上限額、精算の方法、本の所有権、読んだ後の共有の6つです。税金の扱いは、規程を固める前に顧問税理士などに確認しておきます。
一方で、書籍購入補助は、自分で本を選んで買う人ほどよく使い、読む習慣のない人には届きにくい仕組みでもあります。この記事では、決め方の手順に加えて、制度が使われない理由と、社内図書館など他の方法との組み合わせ方を紹介します。
書籍購入補助とは|本の代金を会社が負担する福利厚生
書籍購入補助には、大きく分けて3つの型があります。どの型にするかで、対象にする本の範囲や税金の扱いが変わります。
| 型 | 対象にする本 | 特徴 |
| 業務関連型 | 仕事に直接関わる本 | 会社が業務のために本を買う形に近い |
| 自己啓発型 | 仕事に限らず、学びや教養につながる本 | 対象が広く、使う人の幅も広がる |
| 定額支給型(読書手当) | 使い道を問わない | 精算の手間はないが、本に使われたかは分からない |
厚生労働省の令和7年度「能力開発基本調査」(2026年7月公表)では、自己啓発に問題があると答えた人が78.8%いました。正社員が挙げた問題点(複数回答)の上位は、「仕事が忙しくて自己啓発の余裕がない」58.5%、「家事・育児が忙しくて自己啓発の余裕がない」27.4%、「費用がかかりすぎる」26.2%です。同じ調査で、自己啓発支援に費用を出した企業は25.9%でした(令和6年度の実績)。
書籍購入補助が和らげられるのは、このうち費用の壁です。時間の壁は、補助だけでは越えられません。制度を作る前に、自社の社員が本を読まない理由がどちらに近いかを考えておくと、ほかの方法と組み合わせるかどうかも決めやすくなります。
書籍購入補助制度で決める6つの項目
規程を作る前に、次の6つを決めておきます。どれも「使いやすさ」と「管理のしやすさ」の綱引きになるので、最初は使いやすさに寄せ、運用しながら締めていくほうが、制度は根づきやすいと考えています。
| 項目 | 決めること | 例 |
| 対象者 | 誰が使えるか | 正社員のほか、契約社員・パートも含める |
| 対象にする本 | どんな本まで認めるか | 業務と自己啓発の本。小説・漫画は対象外など |
| 上限額 | 月や年にいくらまでか | 月3,000円まで、繰り越しなし |
| 精算の方法 | どうやって代金を払うか | 月1回、領収書をまとめて申請 |
| 本の所有権 | 本は会社のものか個人のものか | 個人の所有。退職時の返却は不要 |
| 読んだ後の共有 | 感想などを求めるか | 任意で社内チャットに書名と一言 |
対象者
正社員だけにするか、契約社員やパート・アルバイトまで含めるかを決めます。入社した月から使えるのか、試用期間が明けてからなのかも、あわせて書いておきます。
対象にする本
業務に関わる本だけにするか、自己啓発や教養の本まで広げるかを決めます。小説や漫画、雑誌を含めるか、電子書籍やオーディオブックを認めるかも、ここで決めておくと申請する側が迷いません。
判断に迷う本は、申請するときに「仕事や成長とどう関わるか」を一言書いてもらう形にすると、細かい一覧を作らずに済みます。
上限額
月額にするか年額にするか、全額を補助するか半額などにするかを決めます。たとえば月3,000円なら年3万6,000円で、1冊1,700円の本なら年に20冊ほどの計算です。読んでほしい冊数から逆算すると、金額を決めやすくなります。
精算の方法
社員が立て替えて領収書で申請する方法、会社の口座やカードで直接買う方法などがあります。電子書籍は領収書の出し方がサービスごとに違うので、どの書類があれば精算できるかを先に決めておきます。
本の所有権
補助で買った本を会社の所有にするか、個人の所有にするかを決めます。会社の所有にすれば、退職時の返却や社内の本棚への寄贈を求められます。個人の所有にすれば管理は楽になる一方で、税金の扱いに関わることがあります(次の章で触れます)。
読んだ後の共有
感想文の提出を条件にすると、本を読む前から気が重くなり、申請が減りがちです。共有を求めるなら、社内チャットに書名と一言を書く程度の任意にしておくと、使う人の負担になりません。
書籍購入補助の税金と経費の扱い
書籍購入補助で気をつけたいのは、補助が給与として課税されるかどうかです。「福利厚生だから非課税」とは限りません。
国税庁の質疑応答事例は、社員本人が負担すべき費用を会社が負担した場合は、給与が支払われたものとして課税する必要があるとしています。社員が自分のものとして買う本の代金を会社が肩代わりする形なら、この考え方が当てはまる可能性があります。
一方、仕事に直接必要な知識を身につけるための費用について、会社が負担しても課税しなくて差し支えないとする所得税基本通達36-29の2が挙げているのは、研修会や講習会の出席費用、大学などの聴講費用です。書籍代は挙げられていません。「業務に関係する本なら非課税」と決めつけず、本を会社の資産として買って貸し出す形にするか、個人の所有にするかも含めて検討します。
扱いは補助の型や規程の書き方で変わります。規程を固める前に、顧問税理士や所轄の税務署に確認しておくと安心です。
書籍購入補助が使われない3つの理由
制度を作っても申請が少ないときは、次の3つのどれかが原因になっていることが考えられます。
申請と精算に手間がかかる
2,000円前後の本1冊のために、領収書を保存し、申請書を書き、上長の承認を待つ。手間が代金に見合わないと感じれば、自分で払って済ませる人が出てきます。
何を読めばいいか分からない人には届かない
書籍購入補助は、読みたい本が決まっている人が使う制度です。読みたい本が浮かばない人にとっては、補助があっても申請する理由がありません。
文化庁の令和5年度「国語に関する世論調査」では、1か月に本を1冊も読まない人が62.6%でした(16歳以上が対象。電子書籍を含み、雑誌と漫画は除く)。読書量が減っていると答えた人の理由では、「仕事や勉強が忙しくて読む時間がない」が38.9%を占めています。ふだん本を読まない社員が多い職場では、補助を作っただけでは使う人が限られると考えておくと、次の手を打ちやすくなります。
対象になるかどうか判断しにくい
「業務に関係する本」とだけ書かれていると、小説やエッセイ、少し遠い分野の本は申請してよいか迷います。迷ったときに申請を見送る人もいるので、対象の例をいくつか書いておくと使われやすくなります。
書籍購入補助を使われる制度にする工夫
使われない理由の裏返しで、手間を減らし、最初の1冊を用意し、共有を軽くします。
精算を月1回にまとめる
1冊ごとの申請をやめ、月に1回、領収書をまとめて出してもらう形にします。上限額の範囲なら上長の承認を省くと、申請する側も担当者も楽になります。
最初の1冊の候補を用意する
新しく入った人向けの3冊、管理職になった人向けの3冊のように、立場ごとの候補を用意しておくと、何を読めばいいか分からない人も最初の申請がしやすくなります。候補の本を社内に置いておく方法は、社内図書館の作り方で紹介しています。
共有は任意の一言にする
読んだ本を社内チャットのひとつのチャンネルに書名と一言で流すだけでも、ほかの人が次の1冊を選ぶ手がかりになります。義務にせず、書きたい人が書ける場にしておきます。
書籍購入補助と社内図書館・本の要約サービスの違い
書籍購入補助は、自分で学ぶ人を後押しする制度です。読む習慣のない人も含めて本に触れる機会を広げたいなら、ほかの方法との組み合わせを考えます。
| 方法 | 本を選ぶ人 | 届きやすい人 | 主な費用 |
| 書籍購入補助 | 社員本人 | 自分で本を選んで買う人 | 補助額×使う人数 |
| 社内図書館 | 会社(担当者や外部の選書サービス) | 棚の前を通る人 | 本の代金、選書の手間 |
| 本の要約サービス | サービス側が要約する本を選ぶ | 読む時間が取りにくい人、何から読むか迷う人 | 月額などの利用料 |
| 社内読書会 | 主催者や参加者 | 参加した人 | 参加者の時間、本の代金 |
たとえば、補助は今のまま残し、何を読めばいいか迷う人のために社内の本棚を置く。忙しくて1冊を読み通せない人が多いなら、本の要約サービスで要点に触れてから気になった本を補助で買ってもらう。こうした組み合わせなら、制度を作り直さずに届く範囲を広げられます。
「補助を作ったものの一部の人しか使っていない」「何から手をつけるか決めきれない」という場合は、雨音選書の法人プラン(社内図書)の窓口からもご相談いただけます。目的や社員の構成を伺ったうえで、社内の本棚の選書のほか、本の要約サービスなど合う方法をご紹介します。雨音選書は、ブッククランチの運営元である株式会社アマノートのサービスです。
編集長のひとこと:書籍購入補助は「読む人」の背中を押す制度
田中寛大本の代金を会社が出してくれる制度は、本を読む人にとってはありがたいものです。ただ、申請するには、まず自分で読みたい本を見つけなければなりません。読みたい本が浮かばない人にとっては、補助があっても使う理由がないままです。
私が雨音選書という選書サービスを続けているのも、読みたい気持ちはあっても何を選べばいいか決められない、という段階があると考えているからです。補助を作るなら、最初の1冊の候補を一緒に用意しておく。対象の本も、紙に限らず電子書籍やオーディオブックまで広げておく。私自身、紙の本とオーディオブックの両方で読んでいるので、読み方の違う人が使えるかどうかで、制度の使われ方は変わると考えています。
書籍購入補助に関するよくある質問
- 書籍購入補助の上限額の相場はいくらですか?
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相場を示した公的な統計は見当たりません。上限は会社ごとに違うので、読んでほしい冊数から逆算すると決めやすくなります。単行本1冊を1,700円前後とすると、月に1冊なら月2,000円、年に12冊なら年2万円ほどが目安です。
- 小説や漫画も書籍購入補助の対象にできますか?
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会社の判断で対象にできます。小説や漫画まで含めると使う人の幅は広がりますが、何のための制度かが伝わりにくくなります。対象を広げる場合も、税金の扱いは補助の型ごとに確認しておきます。
- 電子書籍やオーディオブックも対象にできますか?
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会社の判断で対象にできます。紙の本だけにすると、通勤中に電子書籍やオーディオブックで読む人は使いにくくなります。電子書籍やオーディオブックは領収書の出し方がサービスごとに違うので、精算の方法とあわせて決めておきます。
- 補助で買った本は退職時に返す必要がありますか?
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社内規程で決めた所有権によります。会社の所有とした場合は返却や社内の本棚への寄贈を求め、個人の所有とした場合は返却を求めない、という分け方になります。どちらにするかを規程に書いておくと、退職時に迷いません。
- 書籍購入補助は給与として課税されますか?
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課税される可能性があります。国税庁は、社員本人が負担すべき費用を会社が負担した場合は給与として課税する必要があるとしています。研修や講習の費用には課税しなくて差し支えないとする通達がありますが、書籍代は挙げられていません。補助の型や本の所有権の決め方で扱いが変わるので、導入前に顧問税理士や税務署に確認してください。










