芦辺拓は、『鮎川哲也賞』『本格ミステリ大賞』など、受賞歴がある推理小説作家です。近代の古式ゆかしい雰囲気を大切にして、不思議な世界を舞台に活躍する探偵も魅力的。本記事では芦辺拓の作品の特徴の解説をし、おすすめの小説を紹介しています。
目次
芦辺拓作品の特徴とは?
芦辺拓の作品の中でも有名なシリーズを紹介します。小説の特徴についても説明しますね。
『森江春策(もりえしゅんさく)』シリーズが有名
芦辺拓の作品では、弁護士が探偵役の『森江春策の事件簿シリーズ』が人気です。事務所の助手の新島(にいじま)ともか、愛犬のゴールデンレトリバーの金獅子(きんじし)ともに活躍します。登場人物とのやり取りがコミカルでもあり、謎解き展開が予想外で驚く場面も。森江の友人で作家の芦辺拓が、事件を小説として発表している形を取っています。
古典的で独特な雰囲気のミステリー
国内外で古くから読みつがれる作品を好む人も、芦辺拓の作品を愛読。推理小説に懐かしさやレトロな雰囲気があり、かえって新鮮味を感じることもあるようです。古典的な作品の舞台を借りている推理小説も見られます。
著名なミステリー小説のオマージュも!
芦辺拓の小説には横溝正史の探偵役の金田一耕助、江戸川乱歩の探偵役の明智小五郎などが登場した作品、著名な推理小説から舞台を借りることもあります。単に推理小説を模倣するわけではなく、探偵の捜査、振る舞い、トリックの使い方などの雰囲気を大切にし、敬意を持って書いているのが伝わってくるようです。
『乱歩殺人事件「悪霊」ふたたび』は、江戸川乱歩の絶筆『悪霊』を補筆して解決まで導いた作品。作者の江戸川乱歩や、常宿にしていたホテルまでも登場させて真相に迫っています。江戸川乱歩の結末とは異なるかもしれませんが、工夫をこらしていて感嘆した乱歩の愛読者も多いようです。
ミステリーを下敷きにしたSF小説
作者の小説には、ミステリー仕立ての推理小説も見られます。並行した世界が広がるパラレルワールドもの、蒸気を主な動力に使う世界を舞台にしたものなどがありますよ。
芦辺拓のおすすめ人気作品10選を紹介!
芦辺拓の作品のうち、読者がおすすめしている作品を10編紹介します。
『大鞠家殺人事件』
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本作品は、第75回『日本推理作家協会賞』を受賞した話題作。舞台は第二次世界大戦末期から終戦後の昭和の大阪船場、化粧品を扱う豪商の大鞠家で起こった連続殺人事件を描いた作品です。一家の長男の新妻、美禰子(みねこ)の視点から描かれています。行方不明になった家族の謎やクロフツの作品を想起させるトリックと飽きさせず、戦時中のほの暗い雰囲気の中でも軽い語り口で読みやすいです。
『奇譚を売る店』
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推理小説というよりは、幻想的な雰囲気でホラーのテイストが入ったような6つの連作短編集。それぞれ別人とおぼしき『私』という6人の主人公が古本屋で購入した本を読み、現実と幻の世界を移ろいながら本の世界に引き込まれている様子を描いています。
『殺人喜劇の13人』
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本作は作者のデビュー作で、第1回鮎川哲也賞に選ばれた小説。大学生時代の森江春策が素人探偵役を務めます。ミニコミ誌を発行するサークルに加入している十沼(とぬま)は、病院を改築した『泥濘荘(ぬかるみそう)』で仲間と下宿中。一緒に住む学生仲間が次々と殺人事件の犠牲に。客員執筆で参加する森江は、友人達を守るため事件の解決に取り掛かります。
『金田一耕助VS明智小五郎』
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根強いファンが多い、横溝正史と江戸川乱歩の作品で活躍する探偵が推理を競うミステリー。金田一シリーズ、明智シリーズの愛読者でも納得できる両者に敬意を示したパスティーシュ(先に発表された作品を真似る)のジャンルです。本作品は、大阪の老舗薬問屋の元祖と本家がどちらが本筋であるか争う中で事件に発展し、若き日の金田一とベテランの明智が解決しようとしのぎを削ります。
こちらのシリーズは3作品(角川文庫)。
- 『金田一耕助VS明智小五郎』
- 『金田一耕助VS明智小五郎 ふたたび』
- 『金田一耕助、パノラマ島へ行く』
『名探偵・森江春策』(『少年は探偵を夢見る』より改題)
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主人公の森江春策の少年期、中学生から大学生の頃、新聞記者を経て弁護士になった頃までを、時系列に沿って5つの話をまとめた短編集。ジュブナイル系の短編、スリルが感じられる話、本格的な謎解きやタイムマシンを扱ったSF風の作品などバラエティに富んでいます。
所収された短編は以下の通り。
- 『少年探偵はキネオラマの夢を見る』
- 『幽鬼魔(ゆきま)荘殺人事件と13号室の謎』
- 『滝警部補自身の事件』
- 『街角の断頭台(ギロチン)』
- 『時空を征服した男』
『異次元の館の殺人』
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本作は、間違えた推理をすると平行世界に飛ばされるパラレルワールドもの。推理小説とSFを組み合わせた作品です。検察の不正を告発しようとした名城検事は、殺人事件の汚名を着せられて逮捕。冤罪の可能性が高く、彼を信じる菊園検事は事件の解決を決意します。法廷で相対する弁護士の森江に協力を求めたものの、研究機関でのトラブルにより殺人事件が発生。さらに菊園検事は危機に陥ります。
『名探偵は誰だ』
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表題の通り、探偵が誰か探す(フーダニット)だけの作品ではありません。犯人や被害者になりそうな人、罠をかけようとしている人、生き残りそうな人、怪盗はどの人であるかなど、7編の連作短編集でまとめられています。いろいろな種類のフーダニットを楽しみたい人におすすめです。
『スチームオペラ (蒸気都市探偵譚)』
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本作は昔の人がイメージしていた未来の科学世界を舞台にしたもので、蒸気が動力源になっている世界を描いたSFとミステリーをあわせた内容になっています。空中船に迷い込んだ謎の少年ユージンと出会った探偵見習いの少女エマは、都市部で起こる事件を協力して解決していくことに。明るく読みやすい文章で、10代の人にもおすすめです。
『紅楼夢の殺人』
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本作品は中国の古典、四大奇書の一つ『紅楼夢』を舞台にした推理小説です。作者が紅楼夢を愛読していて、10年構想を温めてきたとのこと。皇帝の貴妃となった元春が勉強を嫌う弟の賈宝玉の才能と要望を惜しみ、庭園での生活を命じます。一族の若い女性達が次々と殺人事件に巻き込まれ、賈宝玉と司法官の頼尚栄が犯人を探すことになりました。
『綺想宮殺人事件』
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こちらの作品は、理解に難しいところがあり読み直しで読破したという人もいます。最初に読むのではなく、ある程度作者の本を読んでから挑戦するのがおすすめ。琵琶湖に近い立派な綺想宮という建物を訪れた弁護士の森江春策。邸内には案内人と7人の先客がいました。天地創造の7日間を表す曲を機械が奏でると、滞在客は無惨に殺されていきます。
芦辺拓の小説をおすすめ!一味違うミステリーを読みたい人へ
芦辺拓の作品は、本格的なミステリーにひねりをきかせたものを読みたい人におすすめ。SF、ホラーなどを組み合わせた多彩な作風で、古典に舞台を借りたり、先達の作品中の登場人物の世界を見事に描いたりして期待を裏切りません。パスティーシュ作品も作者に敬意を表していることを感じさせ、原作のファンも楽しめます。