吉川英治は大正から昭和にかけて活躍した小説家。本記事では吉川英治のおすすめの作品を紹介するとともに作品の特徴も説明します。
目次
吉川英治の作品の特徴とは?
吉川英治の数多くの小説が映画やドラマの原作になっています。どのような作品であるか、特徴を解説していきますね。
独特な解釈の歴史小説
吉川英治の得意とするジャンルは歴史小説です。有名な歴史上の人物や古典作品をもとに、独自の解釈で執筆しています。話の展開も早く、同時代の作家と比べて文体も柔らかくて読みやすいです。雑誌や新聞などの連載で多く人の目に触れ、愛読する人が増えました。
中国の小説『三国志』『新・水滸伝』を書いているのは、作家になる前の経験が生かされています。もともとは新聞社の記者で、日中戦争の時期は従軍記者をしていました。その際に中国の文学に触発されて『三国志』を書いたということです。
登場人物が身近に感じる小説
作者が書いた作品は、主要人物が努力をして成功をつかんだり、恵まれない状況でも努力を怠らずに活躍したりといった作品が多数。読者にとっては感情移入しやすく、登場人物を身近に感じることもあるようです。大衆小説といわれ根強いファンがいるのも納得できますね。
吉川英治のおすすめ作品9選!
吉川英治の作品の中でおすすめの小説を紹介します。ファンの多い歴史小説を中心に9編選びました。
注…書籍の情報は、講談社から発行された『吉川英治歴史時代文庫』を参考にしています。
『三国志(1~8巻)』
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『三国志演義』などの中国の小説をもとにした大作。漢が滅亡した後に魏、呉、蜀の3国が中国の覇権を争う話の中に、登場人物の恋愛や友情、欠点を克服しようとしていく姿を絡めています。後の蜀の皇帝になる劉備玄徳と関羽、張飛が出会うところから、劉備玄徳が招聘した諸葛亮孔明が死後に戦いを仕掛け、魏延が謀反を起こす場面までが書かれています。
『宮本武蔵(1~8巻)』
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テレビドラマやマンガの原作で広く知られている作品です。剣豪で知られる宮本武蔵が主人公で、武蔵が苦労しながらも精神的に成長して『二天一流』の剣術を会得する姿を描写。武蔵のライバル佐々木小次郎との真剣勝負、幼なじみの又八と母のお杉との因縁、恋人のお通、助けてくれたお甲、朱実母子との交流など、武蔵を巡る魅力的な人物も人気です。
『私本太平記(1~8巻)』
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鎌倉末期~南北朝の頃の軍記物『太平記』を元に書かれた小説。主人公の足利尊氏は、第二次世界大戦中まで天皇家に逆らった室町幕府の将軍、悪人と評価されていました。作中では天皇や親族、臣下、他の武将などとの人間関係に苦悩しつつも、天下泰平を目指す姿を描写。尊氏のライバルの楠木正成は、争いを嫌う穏やかな人物と大胆な解釈をしています。
『新書太閤記(1~11巻)』
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農民から関白の身分まで成り上がった豊臣秀吉の半生を描いた小説。織田信長のもとで頭角を現し、木下藤吉郎と改名して出世をする姿に惹かれる人も多いようです。本来の『太閤記』とは異なり、徳川家康との緊迫した関係が強まる小牧・長久手の戦い(亡くなる十数年前頃)までを描いています。終わり方が唐突で、その後の豊臣家のことを考えてしまう読者も。
『新・水滸伝(1~4巻)』
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本作は未完で、雑誌の連載中に惜しまれながら絶筆となった作品です。中国の奇書『水滸伝』の話の筋をもとに、性格を独自の表現で書いて魅力的に仕上げています。原作の壮大な世界観を生かし、語り口も軽快です。山深い洞窟の封印を破ってしまった中国の役人。封印が解き放たれた108個の魔の星は、主人公の宋江をはじめとして人間に変身します。
『親鸞(1~3巻)』
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親鸞は鎌倉時代の僧侶で、浄土真宗の開祖。源氏の流れをくむ下級貴族で幼少期から困難を極めてきました。浄土宗の師、法然上人のもとで修行をし、自ら考えた教えを広めて、苦労しながら多くの人を助けようとする姿を書いています。9歳で仏道修行の道に入る親鸞が、腐敗した寺院に絶望したり、未来が見えずに焦ったりする様子に感情移入する人もいるようです。
『新・平家物語(1~16巻)』
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本作は大作で、『平家物語』だけでなく他の軍記物や、当時の貴族の日記などを参考にして執筆したとのこと。主人公の平清盛の幼少期から、絶頂期を迎えて死後は没落して滅亡する様子を書いています。源氏と平氏の隆盛や衰退だけでなく、奥州藤原氏や摂関政治、天皇家の勢いが衰えていく様子なども描写。西行法師や文覚上人、架空の人物の阿部麻鳥など権力とは程遠い人物の視点も入れています。
『平の将門』
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桓武平氏の流れをくむ、平安時代の『平将門の乱』を下敷きに書いた作品です。作者は、平将門を関東の豪族で、素朴な人物として描写。朴訥で素直な青年が、なぜ親族同士の反乱に巻き込まれて逆賊とされてしまったのか、作者は悪いイメージをなくしたい一心で執筆したといわれています。他の歴史小説と比較して1冊で完結するため、はじめて吉川英治の本を読む人にもおすすめです。
『鳴門秘帖(1~3巻)』
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第10代阿波国徳島藩主の蜂須賀重喜が江戸幕府から蟄居を命じられた事件を下敷きにした、公儀隠密が活躍する人気小説。江戸時代中期、阿波藩主が倒幕運動を主導した疑いがあり、幕府は領地に甲賀の隠密、法月弦之丞(のりづきげんのじょう)を差し向けます。危険を察知した藩は鎖国を決定。法月と阿波藩士の攻防、隠密の宗家の娘との恋を絡めて話が展開していきます。
吉川英治がおすすめ!ユニークな視点の歴史小説を読みたい人へ
吉川英治の作品をおすすめするのは、作者独自の視点で描いた歴史小説を読みたい人です。史実とはかけ離れている作品もありますが、語り口が軽快で読みやすく古典に興味を持てるかもしれません。主人公が努力をして成長していく姿も見どころがあり、歴史上の人物を身近に感じられます。