村田沙耶香は、独特の世界観で世の中の常識とされている概念を疑い、『普通』とは何なのかを問い直す内容の作品が多い作家です。ここでは芥川賞受賞作『コンビニ人間』をはじめ、『殺人出産』『地球星人』など、作者の作品から特におすすめの10冊を紹介します。
価値観が変化し続ける世の中に対して自分なりの考えを持ちたい人に、ぜひ手に取っていただきたい作品です。
目次
村田沙耶香とは
『コンビニ人間』で芥川龍之介賞を受賞した村田沙耶香は、『常識』を疑う独特の世界観が特徴です。主なテーマや、これまでの経歴を見てみましょう。
世の中の「正しい」を疑いタブーへの違和感に挑む鮮烈で異質な世界観
村田沙耶香は、世の中の常識とされている概念を疑い、『普通』とは何なのかを考えさせられる内容の作品が多いのが特徴です。主なテーマは性や家族、妊娠、死や生、人の欲望、殺人など。人間の本質と真正面から向き合い、『常識』とは何かを読者に問います。
作者の作品には一歩踏み込んだ、真の意味での多様性についても読者に考えさせる力強さがあります。魔法少女など不思議な設定の作品も多いですが、いずれも世の『タブー』に切り込むように鋭い視点で描かれた世界観が特徴です。
自身の抱く世間への違和感を小説で問い続ける村田沙耶香
村田沙耶香は千葉県で生まれ、10歳から執筆を始めました。小説を書くことで自分を表現し救われてきたという学生時代。高校生の頃、山田詠美作品に出会い、影響を受けます。
大学卒業後は横浜文学学校にて芥川賞受賞者の宮原昭夫に学び、2003年には『授乳』で群像新人文学賞優秀賞を受賞。その後『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島由紀夫賞を受賞しました。
また、2016年には『コンビニ人間』で芥川龍之介賞を受賞しています。
村田沙耶香作品のおすすめ10選
インパクトの強い表現で社会のタブーに切り込み、固定概念への嫌悪感や『普通』から解き放たれた先にある世界を描く村田沙耶香。おすすめの10作品をご紹介します。
コンビニ人間
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芥川賞を受賞した本作。変わりもので恋愛経験もなく、18年間コンビニでアルバイトを続けている主人公の古倉。働いている間だけは、人間らしくいられると感じ、私生活すべてをコンビニで円滑に働くことを基準に過ごします。
元バイト仲間の白羽に強引に同居させられると、職場では『同棲』だと騒がれる羽目に。古倉はうとましく感じつつ、徐々に社会が決めつける形に収まることを便利だとも思うようになります。古倉は最終的にどのような自分を選ぶのでしょうか。
『普通』とは何か、世の中の価値観から離れて、自分自身の考えを深めたくなる作品です。
殺人出産
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『殺人出産システム』により、10人出産すると1人殺せるようになった日本を舞台に書かれた作品。恋愛や結婚とは別に命を生み出すシステムの中で、『殺意』が命を育む原動力となり、世の中での殺人の意味が変わります。
『産み人』として10人目の出産を控えた姉が殺したい人は誰なのか。表題作の他3作を含む本作はインパクトが強く読み応え十分です。日常から離れ、スリルを感じる読書体験をしたい方におすすめです。
地球星人
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塾の先生や母親からの虐待を受けるたび、生き延びるために魔法を使う主人公の奈月。奈月は自分が魔法処女であること、いとこの由宇は自分が宇宙人かもしれないことを互いに打ち明けます。
奈月は大人になっても幻想の中で生き、『地球』で暮らす人々を『地球星人』、社会を新しい生命を製造する『工場』だと感じるように。同じ価値観の夫と由宇の3人で『地球星人』とは違う新しい生き方を模索します。
衝撃的で斬新な世界観で描かれた作品は、頭の中にある常識を打ち砕き、価値観を作り直すきっかけになるはずです。
生命式
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人が亡くなったあと、お葬式ではなく『生命式』として遺体を料理し、みんなで食べる習慣が一般的になった世界を描いた作品です。『生命式』のある社会では遺体を食べながら男女が受精相手を探し、見つかると式を抜け『受精』を行います。
死から生を生む、というスタンスの『生命式』。現実とはかけ離れている物語の中に、常識を疑う作者の強いメッセージを感じる作品です。
しろいろの街の、その骨の体温の
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ニュータウンで育つ小4の結佳は同級生の伊吹を「おもちゃ」にしたい衝動に駆られ、大胆な行動で徐々に伊吹を支配するように。中学生になると、クラス内には上位者と下位者を分ける残酷な価値観が芽生えます。
結佳は自分の価値を意識するようになり、これまで高圧的でいられた伊吹との関係性にも変化が。クラス内での絶対的な序列や承認欲求ゆえの言動など、リアルな描写は読者の学生時代の記憶を嫌でも呼び起こします。
教室という閉じた世界の中で、居場所を探す必死さが痛々しく胸に突き刺さる物語です。
消滅世界
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夫婦間での恋愛や性行為はタブーとなり、恋人はアニメなど二次元のキャラか家庭外に作ることが常識となった社会を描きます。主人公の雨音は自分が交尾で生まれたことから母に嫌悪感を抱き、母から呪いを掛けられていると感じるように。
実験都市では男性も人工子宮で妊娠でき、人工授精で生まれる『子供ちゃん』を社会全体が『おかあさん』として育てるシステムが導入されます。『日本の未来を予言する小説』として話題の本作は2025年に映画化予定です。
授乳
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受験生の私が家庭教師としてやってきた『先生』を徐々に支配していく、不安定な危うい関係を描いた物語。私は、自分の母の女性性を嫌悪し、もし同い年のクラスメイトであったらきっといじめているなと考えます。
鬱屈した感情を吐き出すように『先生』に、あるゲームを持ちかける私。生々しくグロテスクな表現で少女の心の叫びを描いた物語です。作者のデビュー作で群像新人文学賞優秀賞を受賞しています。
丸の内魔法少女ミラクリーナ
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表題作は、自分は魔法少女という設定を小学生の頃から守り続ける主人公の物語。仕事でストレスの多い日々を、魔法のコンパクトを使ってキュートに変身して乗り切ります。その他、性別禁止の高校が舞台の『無性教室』など計4編を収録。
変わった設定の中でも、ジェンダーや作られた流行など社会に大きな疑問を投げかける作品たちです。他の作品よりもコミカルな雰囲気も含むストーリーのため、初めて作者の作品を読む人にも読みやすい1冊です。
信仰
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現実主義の主人公が同級生からカルト商法を始めないかと誘われる『信仰』など、8つの短編やエッセイで構成された1冊。『信仰』では何かを盲目的に信じることは、対象がカルトでも現実でも同じように危ういことが表現されています。
何を異質とするのか、価値観は人によって違うことを改めて考えさせられる短編集です。
変半身
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生まれ育った島ではポーポー様という神様が信じられ、14歳になると『モドリ』と呼ばれる秘祭に参加することが掟でした。大人になり、再び島を訪れると島は一変。
島民は塗り替えられた歴史の上、新しい常識の元で生活するように。神様とはなんだったのか、島はなぜ変わってしまったのか。根深く「そういうもの」だと信じられている概念を根本から疑い覆すような、世間に大きな問いを投げかける作品です。
常識を疑いながら死や身体や人の心理をえぐり出す村田沙耶香作品
村田沙耶香の作品には、これまでの価値観を揺さぶられる力強さを感じます。『普通』とは何かを読者に問う数々の作品では世の中や親、自分自身に向けての嫌悪感や不快感がリアルに描かれています。
『普通』と言われる枠の中に収まることに違和感がある人や、変化する世の中に対して自分なりの考えを持ちたい人はぜひ読んでみてください。