日本三大奇書(にほんさんだいきしょ)は、異なる作者が書いた3冊の推理小説です。ただし、それぞれ一風変わったところがあり、疲れてしまう人もいるとのこと。本記事では日本三大奇書の解説や最後まで読むコツについて紹介しています。
目次
日本三大奇書(さんだいきしょ)について
三大奇書はどのような推理小説でしょうか。詳しい特徴をみてみましょう。
奇書と呼ばれる理由は?
奇書とは、他には見られない珍しい本や、非常に優れた本を指します。また、不思議な雰囲気を持つ本を意味することもあります。以下の3作品は、いずれもそのような要素を備えた作品です。
それぞれの作品は以下の通り。ドグラ・マグラと黒死館殺人事件の2作品は同じ年に発行されました。
- 『ドグラ・マグラ』1935年(昭和10年)発行
- 『黒死館殺人事件』1935年(昭和10年)発行
- 『虚無への供物』1964年(昭和39年)発行
日本に『四大奇書』はある?
中国では『四大奇書(しだいきしょ)』があります。日本には四大奇書があるのでしょうか。
四大奇書とするなら、1978年(昭和53年)発行の竹本健治の『匣の中の失楽(はこのなかのしつらく)』を候補に挙げる人も。浮世離れした不思議な雰囲気の作品です。殺人事件が起こり、奇数章と偶数章では実在した設定の人や状況と作中劇が入れ替わり、視点が逆になります。
3作品のジャンル『アンチ・ミステリー』
三大奇書のジャンルは推理小説の中でも、アンチ・ミステリーに分類。明確な基準はないものの、下記のように考えられています。
- 作中にエピソード(推理や知識の披露、論文や歌詞など)を入れて話を進める推理小説
- 既存の作品を超えた実験的な推理小説
- 今までの推理小説を否定した新しい形の作品
挫折する人が大勢いる
とても残念ではありますが、3作品を読むのを諦める人も大勢います。文体のくせが強く話の流れに追いつけない、探偵役が知識をひけらかすあまりに本筋がわからなくなる、設定や結末などが意表を突いて難しいと感じることもあるようです。
三大奇書の内容や読破のコツを紹介!
日本三大奇書の推理小説のあらすじや特徴とともに、読破のコツについて紹介しています。読破のコツは人によってさまざまですが、苦労したところを挙げる人が多い部分を挙げますね。
『ドグラ・マグラ』(夢野久作)
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九州の大学医学部の精神科に入院している語り手の『私』。記憶をなくしていて、ある殺人事件に関わりがあると考えられているそうです。私の前に現れた医学者の若林から、一か月前に亡くなった正木博士が私を研究の対象にしていたと聞かされます。正木は不思議な論文を残しているということですが…。
特徴…読み進むうちにおかしな感覚に陥る
一見すると推理小説のような印象があり『私』は誰か、事件を起こしたのかが作品の焦点になるかと予想するかもしれません。しかし、推理小説の範囲を超えた展開を見せていきます。
正木博士の作った歌、胎児の成長についての信じられない論文、医学の批判などが書かれた遺言書、唐(中国)の時代のエピソードなどが複雑に入り込み理解できないという人も少なくありません。さらにカタカナで書かれた擬音が耳につき、おかしな感覚に陥ってしまいます。
読破のコツ…読みにくい歌詞などの部分は飛ばす
読み手を最初に悩ませるのは、作品の前半に歌詞が書かれている部分。亡き正木博士は風変わりな人物で、彼が作った歌詞の中に何度も出る『チャカポコ』という擬音は、歌詞の中で木魚を叩く音を表現しています。
『チャカポコ』が1つの文章や連続した文に繰り返されると気味が悪く、目について疲れてしまう人も。『スカラカ』『スチャラカ』と組み合わされると頭の中で響くように感じられます。初読の際に読みにくく断念しそうになったら、飛ばしたほうがよさそうです。
『黒死館殺人事件』(小栗虫太郎)
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医学者、降矢木算哲(ふりやぎさんてつ)の長男と養子4人達が住む黒死館。算哲の自殺後に使用人や養子が次々に殺される事件が起こります。検事の支倉と捜査官の熊代は、博学な探偵の法水麟太郎(のりみずりんたろう)に協力を依頼。残虐で判じ物のような殺人や、算哲の遺児を巡る遺言状の謎などを巡り、館内は異様な雰囲気に。現場で倒れていた算哲の秘書の紙屋伸子は、周囲から疑われ苦境に立たされて…。
特徴…独特な世界観と豊富な知識
降矢木家が外国の妖妃の末裔という噂があったり、養子が館内から出たことがなかったりと謎めいています。薬学や医学、心理学に加えて神学や物理学などさまざまな知識が盛り込まれていて、ホラー要素を演出する印象。見立て殺人、遺体の格好が学術的な暗号やシンボルを表し、犯人の動機や考え方も狂気に満ちていて算哲の影響が感じられます。
読破のコツ…探偵役の長い講釈は後回し
読者が挫折するのは、法水探偵の『知識のひけらかしが長すぎる』こと。事件の状況を観察して推理する際にさまざまな学説を述べて、支倉や熊代に考察を述べるパートがあります。話の筋を追おうとして、探偵のセリフを丹念に読み込もうとすると、話の進み具合がわからなくなるという声が多数。
実は探偵の考察を読んでも、あまり関わりがない部分がほとんど。長い講釈が理解しづらいため、後から読み返すのがおすすめです。『再読する楽しみができた』と前向きに考えましょう。
『虚無への供物』(中井英夫)
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次々に変死を遂げる氷沼(ひぬま)家には呪がかかっていると噂が。『死者が出るかも』と海外赴任中の婚約者の俊夫から、氷沼の遠縁の親族を心配する手紙を受け取った久生(ひさお…女性)。探偵小説が好きな彼女は氷沼家と親しい友人の亜利夫(ありお)に、当主の氷沼藍司(あいじ)といとこの蒼司(そうじ)について聞き、氷沼家に出入りさせます。
まだ起こってもいない事件について、久生、俊夫、亜利夫、氷沼の後見をする藤木田の4人で推理を披露。激論を交わす中、ついに殺人事件が…。
特徴…すべてが真逆な推理小説
発行年が現在(2025年4月)に近く、三大奇書の中ではもっとも読みやすいです。本作では話の展開が真逆です。通常の推理小説は、事件が起こってから解決に向かうのが一般的。しかし、明確な殺人事件が起こる前に探偵達が推理をしだす、密室状態であるのに『密室事件ではない』と理由なく主張する様子などが目につきます。終いには犯人が探偵役や読者を批判するような始末で、あぜんとする読者も少なくありません。
読破のコツ…知識のひけらかしが多い前半部分は斜め読みで!
前半部分では議論が長く、過去の小説やシャンソンなどへの知識をひけらかすように発言する場面もあり、詳しくない人にとっては『何を言っているのかわからない』と不満になるとのこと。登場人物も多く、話を整理するのも一苦労。探偵役の知識の披露や人物の多さに参ってしまうなら斜め読みをして、再読したときに詳しく確認しましょう。後半部分にさしかかると、殺人事件が起こってスピードが上がります。
一風変わったミステリーを味わいたい!『三大奇書』をおすすめ
今までと異なるスタイルの推理小説に挑戦するなら、三大奇書を読むのがおすすめ。たしかに文章が読みにくい、設定についていくのが難しい、話の筋が追いにくいといった問題で挫折をする人もいます。もし、興味があっても手を出しにくいなら、オーディオブックなどのサービスを利用して耳から鑑賞する方法もありますよ。