社内図書館は、会社が本をそろえ、社員が仕事の合間に読んだり借りたりできるようにする仕組みです。図書室のような部屋を用意しなくても、棚ひとつ分の小さな本棚から始められます。
作り方は「目的を決める→置き場所を決める→最初の本を選ぶ→貸し出しのルールを決める→入れ替えの時期を決める」の5段階です。家具や場所よりも決めにくいのは、何の本を置くかのほうです。
この記事では、選書サービス「雨音選書」を運営するブッククランチ編集部が、本の選び方を中心に、費用の目安、貸し出しと著作権の注意点、置いても読まれないときの見直し方までをまとめます。
社内図書館とは|社内の本棚・書籍購入補助との違い
社内図書館は、会社のお金で買った本を社内に置き、社員が自由に読めるようにする仕組みです。「社内図書」「社内ライブラリー」「オフィスの本棚」と呼ぶ会社もあり、呼び方に決まりはありません。
似た制度に、社員が買った本の代金を会社が負担する書籍購入補助があります。2つの違いは、本を選ぶ人と、本の持ち主です。
| 社内図書館 | 書籍購入補助 | |
| 本を選ぶ人 | 会社(担当者や外部の選書サービス) | 社員本人 |
| 本の持ち主 | 会社 | 社員本人(会社の規程による) |
| 読める人 | 棚の前を通った社員なら誰でも | 主に買った本人 |
| 向いている目的 | 部署を越えて同じ本に触れる・思わぬ本との出会い | 自分で学びたい人の後押し |
社内図書館の強みは、ふだん自分で本を選ばない人の目にも本が入ることです。文化庁の令和5年度「国語に関する世論調査」では、1か月に本を1冊も読まない人が62.6%でした(16歳以上が対象。電子書籍を含み、雑誌と漫画は除く)。自分から書店に行かない人が多いほど、通りがかりに目に入る棚には意味があります。
一方で、置いた本が社員の関心とずれていると、棚はすぐに素通りされます。この記事で本の選び方に多くの紙幅を割いているのは、そのためです。
社内図書館をつくる前に、目的を1行で決める
最初に決めたいのは、何のための棚かです。目的によって、置く本も置き場所も変わります。
| 目的 | 置く本の例 | 置き場所の例 |
| 仕事の基礎を身につけてほしい | 業務に関わる入門書、長く読まれているビジネス書 | 執務スペースの近く |
| 部署を越えた会話のきっかけをつくりたい | 話題の本、小説、エッセイなど幅広く | 休憩スペース、給湯室の近く |
| 会社の関心ごとを来客や応募者にも伝えたい | 事業の分野の本、社員のおすすめ | 受付、会議室の前 |
| 休憩時間に気分を切り替えてほしい | 写真集、旅行記、短編集 | ソファや窓際 |
「本棚を置けば、社員が自分から学ぶようになる」とは考えないほうが、計画は立てやすくなります。棚は本と出会う入口にすぎず、読まれるかどうかは、どの本を置くか、どう紹介するか、どのくらいの間隔で入れ替えるかで変わるからです。
社内図書館の作り方|5つの手順
目的が決まったら、次の順で進めます。最初から大きな図書室を作る必要はなく、棚1段から始めて様子を見る方法もあります。
1. 目的と読んでほしい人を決める
前の章の目的に加えて、誰に読んでほしいかも決めておきます。入社して間もない人なのか、管理職なのか、全社員なのかで、本の難しさや分野が変わるためです。
2. 置き場所と棚の大きさを決める
置き場所は、人が自然に立ち止まる場所が向いています。会議室の奥や倉庫の前など、用がないと行かない場所に置くと、本があること自体が忘れられがちです。
棚は最初から満杯にせず、空きを残しておきます。新しく入った本の表紙を見せて置く余白があると、入れ替えたときに変化が伝わりやすくなります。
3. 最初に置く本を選ぶ
最初は10〜30冊ほどから始めると、選ぶ手間と棚の見え方の釣り合いを取りやすくなります。選び方は次の章で詳しく書きます。
4. 貸し出しのルールを決める
ルールは少ないほうが使いやすくなります。先に決めておきたいのは、持ち帰ってよいか、貸し出しの期間、記録の方法の3つです。記録は紙のノートでも、共有の表計算ファイルや社内のフォームでも足ります。
返却が遅れたときの声のかけ方や、なくしたり汚したりしたときの扱いも一言決めておくと、担当者が迷いません。
5. 入れ替えの時期を決める
同じ本が並び続けると、棚は景色の一部になって見られにくくなります。季節ごとや四半期ごとなど入れ替えの時期を決め、担当者を1人置いておくと続けやすくなります。外した本は、貸し出し用の別の棚に移すなど、社内のルールに沿って扱います。
社内図書館の本の選び方|定番だけで棚を埋めない
本の選び方に迷ったら、「定番」「社員が読みたいもの」「自分では選ばない本」「リクエスト」の4つの枠に分けて考えると、偏りを防げます。
| 枠 | 中身 | 10冊のときの例 |
| 定番 | 業務の基礎になる本、長く読まれているビジネス書 | 3冊 |
| 社員が読みたいもの | アンケートで多かったジャンル | 4冊 |
| 自分では選ばない本 | ふだんの関心から少し外れた1冊 | 1冊 |
| リクエスト | 社員から届いた「読みたい本」 | 2冊 |
冊数は一例です。目的が仕事の基礎なら定番を増やし、会話のきっかけなら社員が読みたいものの枠を増やすなど、目的に合わせて配分を変えます。
社員アンケートで読みたいジャンルを集める
選ぶ人の好みに偏らないよう、最初に社員の関心を聞いておきます。名前を書かない形にすると、仕事と関係のない関心や、悩みに近いテーマも書いてもらいやすくなります。
質問は、読みたいジャンル(選択式)、最近気になっていること(自由記述)、棚に置いてほしくないものの3つほどで足ります。
定番の本は全体の一部にとどめる
長く読まれている定番は、棚の土台として役に立ちます。ただ、定番だけで埋めると、多くの人の関心から外れた棚になりがちです。
ブッククランチ編集長の田中寛大が2019〜2022年に運営したオンライン古書店「NAUT BOOKS」の販売記録では、販売した6,951タイトルのうち、2冊以上売れたのは959タイトル(13.8%)でした。『実験思考』(13冊)、『アイデアのつくり方』(11冊)、『チーズはどこへ消えた?』(7冊)のように繰り返し選ばれる本がある一方で、大半の本は1冊ずつ、別々の人に選ばれています。
古書店を運営した経験から言うと、人が読みたい本は思っている以上に散らばっています。定番を数冊置いたうえで、残りは社員の関心に合わせて選ぶほうが、手に取られる本は増えやすいと考えています。定番の候補を探すなら、年代別のビジネス本おすすめ30選も参考になります。
1冊ずつに短い紹介文を付ける
背表紙だけでは、その本が誰に向いているのかが伝わりません。「入社1年目で、仕事の段取りに悩んでいる人に」「通勤の30分で1章ずつ読める」のように、誰に向いているかを2〜3文で添えると、手に取るきっかけになります。紹介文は本に挟むカードでも、棚に貼る小さな札でもかまいません。
寄贈された本だけで棚をつくらない
社員からの寄贈は、本を集める手軽な方法です。ただ、寄贈だけに頼ると、読み終えて手放したい本が中心になり、分野にも偏りが出ます。寄贈は受け付けつつ、どの枠に入れるかは選書の担当者が決めるようにすると、棚の軸がぶれません。
社内図書館の費用の目安
費用は、本の代金、棚、選書や管理の手間の3つに分けて考えます。本の代金は、雨音選書の法人プランの見積もりと同じく1冊1,700円で計算しています。
| 費用 | 目安 | メモ |
| 最初の本の代金 | 30冊で約5万1,000円 | 文庫や新書を混ぜると下がり、単行本が中心だと上がる |
| 入れ替えの本の代金 | 年4回・1回10冊なら年40冊で約6万8,000円 | 入れ替えの回数と冊数で決まる |
| 棚 | 今ある棚を使えば0円 | 新しく買う場合は家具の価格による |
| 選書・管理の手間 | 担当者の作業時間 | アンケート、選書、紹介文、貸し出しの記録 |
見落としやすいのは手間のほうです。入れ替えのたびに候補を調べ、紹介文を書き、前に置いた本と重ならないよう確かめる作業は、本業の合間に続けるには負担になりがちです。
選書だけを外部に任せる方法もあります。ブッククランチの運営元である株式会社アマノートが提供する雨音選書の法人プランでは、無記名の社員アンケートをもとに年4回本を選び、1冊ごとに紹介文を付けます。一度届けた本は次から選びません。料金は10冊×年4回のプランで1回3万円、20冊×年4回のプランで1回5万5,000円、別に初期費用が3万円かかります(いずれも税別・本の代金は別・2026年10月時点)。
社内図書館の著作権の注意点|貸し出し・コピー・電子書籍
社内図書館の運用で気をつけたいのは、本のコピーと電子書籍の扱いです。貸し出しそのものよりも、「便利だから」と本を複製して配るほうが問題になりやすくなります。
本を社内で貸し出す
会社で買った本を社員に貸し出すときは、著作権法の「貸与権」(26条の3)が関わることを知っておきます。貸与権は本を「公衆」に貸すときに働く権利で、特定の少人数に貸すぶんには及びません。ただ、何人からが「多数」に当たるかは一概には言えない、と文化庁の著作権テキスト(令和8年度版)は説明しています。
営利企業が社内で本を貸し出す場合の線引きは、公的には示されていません。社外の人にも貸す場合や、グループ会社をまたいで大きな規模で運用する場合は、法務の担当者などに確認しておくと安心です。
本をコピー・スキャンして配らない
本の一部をコピーして配ったり、スキャンして共有フォルダに置いたりするのは、社内で使う目的でも「私的使用のための複製」(著作権法30条)には当たりません。文化庁の著作権テキスト(令和8年度版)は、この例外を仕事以外で使う場合に限っており、仕事での利用は対象外としています。
社内で本の内容を共有したいときは、本そのものを回し読みするか、感想や紹介を自分の言葉で書いて共有します。コピーがどうしても必要な場合は、権利者の許諾を取ります。
電子書籍のアカウントを使い回さない
電子書籍は、買った本人が読むことを前提にした利用条件のものが多くあります。1つのアカウントを社内で回し読みする前に、各サービスの利用規約を確かめておくと安心です。社内で電子書籍を共有したい場合は、法人で契約できるサービスを選ぶ方法もあります。
社内図書館が読まれないときの見直し方
棚を置いて数か月たっても貸し出しがほとんどない場合は、次の4点を順に見直します。
- 置き場所:人が立ち止まる場所に置いているか
- 紹介文:誰に向いた本かが書いてあるか
- 入れ替え:同じ本が並び続けていないか
- 本の選び方:社員の関心とずれていないか
それでも動かない場合は、本棚という形そのものが目的に合っていないのかもしれません。全員に同じ本を読んでほしいなら読書会、自分で学びたい人を後押ししたいなら書籍購入補助、忙しくて1冊を読み通す時間が取れない人にも届けたいなら本の要約サービスのほうが合うことがあります。
社内図書館とほかの方法の比較
| 方法 | 届きやすい人 | 主な費用 | 向いている目的 |
| 社内図書館 | 棚の前を通る人 | 本の代金、選書の手間 | 思わぬ本との出会い、部署を越えた話題 |
| 書籍購入補助 | 自分で本を選んで買う人 | 補助額×使う人数 | 自分で学ぶ人の後押し |
| 社内読書会 | 参加した人 | 参加者の時間、本の代金 | 同じ本を読んだうえでの対話 |
| 本の要約サービス | 読む時間が取りにくい人、何から読むか迷う人 | 月額などの利用料 | 短い時間で多くの本の要点に触れる |
読書会の開き方は読書会とは?やり方と当日の流れで、書籍購入補助の決め方は書籍購入補助制度の作り方で紹介しています。
どの方法が合うか決めきれない場合は、雨音選書の法人プラン(社内図書)の窓口からもご相談いただけます。目的や社員の構成を伺ったうえで、本棚の選書よりも本の要約を使った学び方などが合う場合は、そちらに合うサービスをご紹介します。
編集長のひとこと:社内の本棚は、全員に同じ本を読ませる場所ではない
田中寛大2019〜2022年にオンライン古書店を運営し、開業から約2年半で8,000冊超の本を販売しました。繰り返し注文が入る本もありましたが、売れた本の多くは1冊きりで、それぞれ別の誰かが選んだものでした。
社内の本棚も同じだと考えています。全員に読ませたい1冊を探すより、「この棚のどこかに、自分に関係のある本がある」と思える並びのほうが、手に取られやすくなります。雨音選書の法人プランで毎回「自分では選ばない1冊」を入れ、一度届けた本を選ばない設計にしているのも、棚を見るたびに新しい出会いがあるようにするためです。
社内図書館に関するよくある質問
- 社内図書館は何冊から始められますか?
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決まった冊数はありません。棚1段・10冊ほどから始め、貸し出しの様子を見ながら増やす方法もあります。最初から棚を埋めずに空きを残しておくと、新しい本が入ったことが伝わりやすくなります。
- 社内図書館の本は誰が選べばいいですか?
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担当者1人で選ぶと、その人の好みに偏りやすくなります。無記名の社員アンケートで関心を集め、担当者が定番の本と組み合わせ、社員からのリクエストを次の入れ替えに反映する形がおすすめです。選書だけを外部のサービスに任せる方法もあります。
- 社内図書館の本代は経費にできますか?
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会社の本として買う場合に、どの費目でどう処理するかは会社ごとに違うので、顧問税理士に確認してください。社員が自分で買った本の代金を会社が補助する形にすると、給与として課税されるかどうかという別の論点が出てきます。
- 社内図書館の本をコピーして配ってもいいですか?
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仕事のために本をコピーしたりスキャンしたりすることは、著作権法30条の「私的使用のための複製」には当たらないため、権利者の許諾が必要になります。社内で共有するなら、本そのものを回し読みするか、感想や紹介を自分の言葉で書いて共有する形にします。
- 社内図書館が使われない原因は何ですか?
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置き場所が人の動線から外れている、誰に向いた本かが伝わらない、同じ本が並び続けている、社員の関心とずれている、のいずれかが考えられます。この4点を見直しても動かない場合は、読書会や書籍購入補助、本の要約サービスなど、本棚以外の方法も検討します。









