万城目学の小説は大半が1冊で完結しているので、刊行順に読む必要はありません。順番があるのはホルモーシリーズと『八月の御所グラウンド』の系列、この2つだけです。
初めての1冊は、デビュー作『鴨川ホルモー』(2006年)か、第170回直木賞を受賞した『八月の御所グラウンド』(2023年)から。この記事では、読む順番を整理したうえで、おすすめ小説10作品を刊行年つきで紹介します。
万城目学を読む順番|順番が必要なのは2シリーズだけ
| シリーズ | 読む順番 |
|---|---|
| ホルモーシリーズ | 『鴨川ホルモー』(2006年)→『ホルモー六景』(2007年)→『ホルモー燦燦』(2026年・完結編) |
| 『八月の御所グラウンド』の系列 | 『八月の御所グラウンド』(2023年)→『六月のぶりぶりぎっちょう』(2024年・第2弾) |
そのほかの作品は独立していますが、登場人物や出来事が別の作品にそっと顔を出します。たとえば『とっぴんぱらりの風太郎』の物語は『プリンセス・トヨトミ』へつながり、『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』には『鹿男あをによし』を思わせる仕掛けがあります。読む順番に関係なく効いてくる仕込みなので、気になった作品から入って問題ありません。
万城目学とは|第170回直木賞を受けた大阪府出身の小説家

万城目学(まきめ まなぶ、1976年生まれ)は大阪府出身の小説家です。京都大学法学部を卒業後、会社勤めのかたわら小説を書いていましたが、仕事が忙しくなって執筆時間が取れなくなり、退職して上京しました。
退職後もなかなか芽が出ず、再就職の準備を始めていたところへ、第4回ボイルドエッグズ新人賞の受賞が決まります。受賞作『鴨川ホルモー』は2006年に刊行され、デビュー作にして代表作になりました。
その後は直木賞の候補に6度選ばれ、2024年1月、『八月の御所グラウンド』(2023年8月刊行・文藝春秋)で第170回直木三十五賞を受賞しました。過去の候補作は『鹿男あをによし』『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』『とっぴんぱらりの風太郎』『悟浄出立』などです。
万城目学作品の魅力は「実在の街で起きる、ありえない話」

万城目作品には、実在する地名や大学がそのまま出てきます。京都・大阪・奈良で学生時代を過ごした人や、関西在住の人なら、地図が頭に浮かぶ状態で読めるはずです。
その現実の土台の上で、オニを使役する競技や、喋る鹿や、大阪の地下に眠る秘密といった、ありえない話が平然と進みます。「自分が知らないだけで、本当にあるのでは」と思わせる書き方が持ち味です。
もうひとつは、コミカルな見た目に反して登場人物の心情が細かいこと。笑って読んでいたはずが、ふとした場面でホロリとさせられます。アカデミックで上品な空気感も、万城目作品らしさのひとつです。
万城目学作品の選び方3つ

1. 映像化された作品から選ぶ
まず有名どころから読みたい人に向く選び方です。名前だけは聞いたことがある、という作品が1つはあるはずです。
- ドラマ:『鹿男あをによし』『バベル九朔』など
- 映画:『鴨川ホルモー』『プリンセス・トヨトミ』『偉大なる、しゅららぼん』など
2. 舞台になっている地域から選ぶ
よく知っている街でファンタジーが起きる読書体験は、なかなか代えがきません。ゆかりのある土地から選ぶ方法です。
- 京都:『鴨川ホルモー』『八月の御所グラウンド』
- 奈良:『鹿男あをによし』
- 大阪:『プリンセス・トヨトミ』
- 滋賀:『偉大なる、しゅららぼん』
3. 文学賞の受賞作・候補作から選ぶ
評価の定まったものから読みたい人向けです。直木賞の受賞作は『八月の御所グラウンド』(第170回・2024年)。候補作には『鹿男あをによし』『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』『とっぴんぱらりの風太郎』『悟浄出立』が並びます。
万城目学のおすすめ小説10選

デビュー作『鴨川ホルモー』(2006年)から『あの子とQ』(2022年)まで、刊行順に10作品を紹介します。
鴨川ホルモー(2006年)|デビュー作にして代表作
2浪の末に京都大学へ入学した「わたし」(安倍)は、「京大青竜会」というサークルに勧誘されます。最初は乗り気でなかったものの、同級生・早良さんの鼻に一目ぼれして活動にのめり込むことに。
ところがこのサークルの実態は、オニを使役して戦う競技「ホルモー」のチームでした。安倍(安倍晴明)、芦屋(芦屋道満)と、登場人物には京都にちなんだ名前が振られています。名前の由来を探るのも読みどころです。
京都・大学生・不思議なファンタジーという組み合わせが好きなら、森見登美彦もおすすめです。森見登美彦のおすすめ小説については、下記の記事で詳しく解説しています。

鹿男あをによし(2007年)|奈良で喋る鹿に命じられる
研究室を追われた「わたし」は、奈良の女子高で物理を教えることになります。期間は9月中旬から2学期末まで。ありきたりな教師生活が待っているはずでした。
ところが下宿暮らしを始めた「わたし」の前に、喋る鹿が現れます。「ある道具を取り戻して日本を救え」という命令に従わなければ、鏡や写真に映る自分の姿が鹿になってしまうというのです。
最後まで名前が明かされない「わたし」、美しい同僚「マドンナ」、裏がありそうな教頭「リチャード」。現代版の『坊っちゃん』とも呼べる構図で、普段は純文学しか読まない人にも入りやすい1冊です。
ホルモー六景(2007年)|『鴨川ホルモー』の周辺を描く6編
『鴨川ホルモー』の番外編にあたる6編の短編集です。大学3年になった安倍が、サークル仲間の高村とホルモーの面々に思いを巡らせるプロローグから始まります。
本編では描かれなかった他チームの人間関係や、時代を超えたつながりが読めます。第6景に出てくる料亭「狐のは」は『鹿男あをによし』にも登場。コメディタッチでありながら、読み終えると不思議な切なさが残ります。
プリンセス・トヨトミ(2009年)|大阪の機能が止まる日
大阪にある謎の団体「社団法人OJO」。実地検査で大阪を訪れた会計検査院の調査官3名は、この団体の金銭の流れが30年以上も不明瞭だと知り、調査に乗り出します。
核心に迫ったとき、大阪の機能が一斉に停止する——。東京とは違う歴史を背負った大阪のロマンが詰まった長編です。登場人物の名は歴史上の人物から取られており、『鹿男あをによし』とのリンクも仕込まれています。
かのこちゃんとマドレーヌ夫人(2010年)|少女と猫の静かな1年
小学1年生のかのこちゃんと、家で暮らす猫・マドレーヌ夫人の日々を描いた物語です。友だちになりたいあの子、立ちそうで立たない茶柱、余命わずかな老犬。穏やかな毎日の隙間に、吉兆と別れの予感が見え隠れします。
かのこちゃんの名を漢字で書くと「鹿の子」。お父さんは鹿と話ができて、子どもが生まれると報告したところ、鹿から勧められた名前なのだそうです。作品内で明言はされませんが、『鹿男あをによし』を思い出さずにはいられません。
とっぴんぱらりの風太郎(2013年)|万城目学初の歴史小説
伊賀を解雇された忍者・風太郎が、近江を経由して京を目指します。ニート忍者となった彼の前に現れたのは、謎の「ひょうたん」でした。
織田・豊臣の時代から徳川の天下へ。大きなうねりに飲まれながら精一杯生きた一人の忍者の物語で、風太郎の話は『プリンセス・トヨトミ』へ引き継がれます。歴史小説そのものをもっと読みたくなったら、山岡荘八のおすすめ歴史小説12選!作風や大河ドラマの原作も紹介もどうぞ。
バベル九朔(2016年)|雑居ビルから出ない新感覚ミステリー
祖父が建てた雑居ビル「バベル九朔(きゅうさく)」の管理人をしている「俺」。小説家志望ですが、新人賞の一次選考すら通ったことがありません。
就職しろと家族に責められていたある日、ビルに黒ずくめの美女が現れ、さらに空き巣事件が起きます。ただの雑居ビルに見えた「バベル九朔」の秘密とは。単行本版と文庫版で内容が異なるので、気に入ったら読み比べてみてください。
パーマネント神喜劇(2017年)|恋愛成就の神様は中間管理職
派手なシャツ、小太りで下ぶくれの顔、調子のいいセリフ。うさん臭い中年男の正体は、恋愛成就の神様でした。
神木の管理、願いを叶える人間の選定、昇進試験に部下の育成。日々の業務に追われる神様のもとへ、ある日珍しい客が訪れます。中間管理職めいた小狡さと軽快な大阪弁が可笑しい連作で、1編が短いので隙間時間にも向きます。
ヒトコブラクダ層ぜっと(2021年)|三つ子とイラクをめぐる超大作
三つ子の梵天・梵地・梵人の特技は、泥棒、化石発掘、そして数秒先の未来予知。幼くして両親を亡くした3人は、この異能で生き延びてきました。
ひょんなことから自衛隊に入隊した3人は、イラクへ派遣されることになります。何が起きているのかわからないまま進むのに読ませる、密度の高い長編です。
あの子とQ(2022年)|吸血鬼の女子高生と正体不明の監視役
女子高生・嵐野弓子の正体は、現代を生きる吸血鬼。とはいえ普段は意識することもなく、平凡な高校生として暮らしています。
そんな弓子の前に、トゲトゲで醜い正体不明の生き物「Q」が現れました。17歳の誕生日までに人間の血を吸わないか監視するのがQの仕事らしいのですが——。ポップな青春ラブコメと思って読み進めると、最後で泣かされます。2025年には続編『あの子とO』(新潮社)が刊行されました。
直木賞受賞後の万城目学と、2026年に出た完結編
2024年1月に『八月の御所グラウンド』(2023年8月刊行・文藝春秋)で第170回直木賞を受賞したあと、万城目学は次のように作品を出しています。
- 『六月のぶりぶりぎっちょう』(2024年・文藝春秋)… 受賞第1作。『八月の御所グラウンド』に続くシリーズ第2弾で、「三月の局騒ぎ」と表題作の2編を収録
- 『あの子とO』(2025年・新潮社)… 『あの子とQ』の続編
- 『ホルモー燦燦』(2026年6月24日・KADOKAWA)… デビュー20周年に合わせて刊行された、ホルモーシリーズの完結編
直木賞受賞作『八月の御所グラウンド』は、京都を舞台にした中編2編(「十二月の都大路上下ル」「八月の御所グラウンド」)を収めた1冊です。万城目作品を今から読み始めるなら、ここから入るのも自然な選択になりました。
監修者の視点:順番が要る作品だけ先に押さえればいい
田中寛大BOOK CRUNCHで作家別のおすすめ記事を企画・監修するとき、最初に確認するのは「順番が必要な作品はどれか」です。刊行順にすべて並べたところで、これから1冊だけ試したい人には必要のない情報になってしまいます。
万城目学の場合、順番を守る意味があるのはホルモーシリーズと『八月の御所グラウンド』の系列の2つだけでした。裏を返せば、残りはどこから入っても損をしないということです。作家を試すハードルとしては、かなり低い部類に入ります。
万城目学作品に関するよくある質問(FAQ)
- 万城目学の作品はどの順番で読めばいいですか?
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順番が必要なのは2シリーズだけです。ホルモーシリーズは『鴨川ホルモー』(2006年)→『ホルモー六景』(2007年)→『ホルモー燦燦』(2026年・完結編)、『八月の御所グラウンド』(2023年)→『六月のぶりぶりぎっちょう』(2024年)の順。それ以外の作品は独立しているので、好きな1冊から読んで構いません。
- 万城目学を初めて読むならどの作品がおすすめですか?
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デビュー作『鴨川ホルモー』(2006年)か、第170回直木賞を受賞した『八月の御所グラウンド』(2023年)です。前者は万城目作品の型がもっともはっきり出ており、後者は中編2編の短さで読み切れます。
- 万城目学の直木賞受賞作は何ですか?
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『八月の御所グラウンド』(2023年8月刊行・文藝春秋)で、2024年1月に第170回直木三十五賞を受賞しました。それまでに『鹿男あをによし』『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』『とっぴんぱらりの風太郎』『悟浄出立』などで6度候補になっています。
- 万城目学の代表作を教えてください。
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『鴨川ホルモー』(2006年)、『鹿男あをによし』(2007年)、『プリンセス・トヨトミ』(2009年)、そして直木賞受賞作『八月の御所グラウンド』(2023年)がよく挙がります。
- 万城目学の映像化された作品はどれですか?
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映画になったのは『鴨川ホルモー』『プリンセス・トヨトミ』『偉大なる、しゅららぼん』、テレビドラマになったのは『鹿男あをによし』『バベル九朔』などです。まず有名な作品から読みたいときの目安になります。
- ホルモーシリーズの新刊はありますか?
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2026年6月24日に完結編『ホルモー燦燦』(KADOKAWA)が刊行されました。『鴨川ホルモー』『ホルモー六景』に続く第3作で、万城目学のデビュー20周年に合わせた刊行です。
気になった1冊から読み始めて問題ない
万城目学作品の魅力は、日常と非日常のバランスと、個性の強い登場人物たちにあります。世界がゆるくつながっているので、読めば読むほど発見が増えるのも楽しいところです。
順番を気にする必要があるのはホルモーシリーズと『八月の御所グラウンド』の系列だけ。あとは映像化作品から、舞台の地域から、受賞歴から——好きな入口を選んでください。
山田悠介のおすすめホラー&サスペンス小説については、下記の記事で詳しく解説しています。












