コリン・デクスター(1930〜2017年)は、英国の推理作家です。邦訳されている作品は長編13作と短編集1作の計14作で、いずれも早川書房から刊行されています。読む順番は刊行順が基本です。長編は前作の出来事に登場人物が触れる場面があり、刊行順に読めばネタバレを避けられます。英国推理作家協会(CWA)のゴールド・ダガー賞は『オックスフォード運河の殺人』(1989年)と『森を抜ける道』(1992年)の2作で受賞しました。
コリン・デクスターとは|モース警部シリーズを書いた英国の推理作家
コリン・デクスターは、オックスフォードを舞台にした警察小説『モース警部シリーズ』で知られる英国の推理作家です。1930年に英国リンカンシャー州スタンフォードに生まれ、2017年3月21日に86歳で亡くなりました。作家業のかたわらクロスワードパズルの愛好家としても知られ、その趣味は主人公モースの人物像にも反映されています。
主な受賞歴は3種類のダガー賞
英国推理作家協会(CWA)が主催するダガー賞を、次のとおり受賞しています。
- ゴールド・ダガー賞…『オックスフォード運河の殺人』(1989年)、『森を抜ける道』(1992年)の2作
- シルバー・ダガー賞…『死者たちの礼拝』(1979年)、『ジェリコ街の女』(1981年)の2作
- ダイヤモンド・ダガー賞…1997年。個々の作品ではなく、ミステリー界への長年の功績に贈られる賞
英ITVでドラマ化され全33話が放送された
モース警部シリーズは、英ITVの『主任警部モース』として1987年から2000年にかけて全33話が放送されました。モース役はジョン・ソウ、部下のルイス役はケヴィン・ウェイトリーが演じています。1話あたり約100分という長尺で、原作にない事件を扱った回も含まれます。
モース警部シリーズを読む順番|刊行順の全14作
モース警部シリーズは刊行順に読むのがおすすめです。長編13作は独立した事件を扱いますが、後の作品で前作の事件や人間関係に触れる場面があるため、刊行順に読めば結末を先に知ってしまう心配がありません。短編集『モース警部、最大の事件』だけは長編との前後関係がないため、どのタイミングで読んでも構いません。
| 順番 | 邦題 | 原題 | 原書刊行年 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 『ウッドストック行最終バス』 | Last Bus to Woodstock | 1975年 | シリーズ第1作 |
| 2 | 『キドリントンから消えた娘』 | Last Seen Wearing | 1976年 | — |
| 3 | 『ニコラス・クインの静かな世界』 | The Silent World of Nicholas Quinn | 1977年 | — |
| 4 | 『死者たちの礼拝』 | Service of All the Dead | 1979年 | シルバー・ダガー賞 |
| 5 | 『ジェリコ街の女』 | The Dead of Jericho | 1981年 | シルバー・ダガー賞 |
| 6 | 『謎まで三マイル』 | The Riddle of the Third Mile | 1983年 | — |
| 7 | 『別館三号室の男』 | The Secret of Annexe 3 | 1986年 | — |
| 8 | 『オックスフォード運河の殺人』 | The Wench is Dead | 1989年 | ゴールド・ダガー賞 |
| 9 | 『消えた装身具』 | The Jewel That Was Ours | 1991年 | — |
| 10 | 『森を抜ける道』 | The Way Through the Woods | 1992年 | ゴールド・ダガー賞 |
| 11 | 『カインの娘たち』 | The Daughters of Cain | 1994年 | — |
| 12 | 『死はわが隣人』 | Death Is Now My Neighbour | 1996年 | — |
| 13 | 『悔恨の日』 | The Remorseful Day | 1999年 | シリーズ最終作 |
| — | 『モース警部、最大の事件』 | Morse’s Greatest Mystery | 1993年 | 唯一の短編集。順番不問 |
邦訳はいずれも早川書房から刊行されています(ハヤカワ・ポケット・ミステリおよびハヤカワ・ミステリ文庫)。同社の海外ミステリーをほかにも探すなら、早川書房のおすすめの本10選もあわせてどうぞ。なお短編のなかには、日本で未訳のまま残っているものもあります。
コリン・デクスターの作風|推理が二転三転するオックスフォードの警察小説

探偵役は捜査本部の主任警部モース
シリーズの探偵役は、テムズバレー警察本部犯罪捜査課のモース主任警部です。酒とワーグナーのオペラを愛し、クロスワードパズルを趣味とする独身の男性で、自分のファーストネームを名乗りたがらず「E.モース」と略して通しています。ときには捜査で知り合った女性が、モースに好意を寄せることも。警察組織の内側から事件を追う型なので、警察小説のおすすめ10選が好きな読者とも相性がよいシリーズです。
推理は論理型ではなく直観型で二転三転する
モースはインテリですが、推理の進め方は論理的ではありません。自分の直観に従って仮説を立て、そこに事実を当てはめていく手法です。そのため推理も捜査方針も途中で何度も入れ替わり、部下たちは振り回されます。読者にとっては「いま示された解決が本当の解決とは限らない」状態が最後まで続くため、犯人当てよりも推理そのものの迷走を楽しむシリーズだと言えます。
ルイス部長刑事ら脇役が物語を支える
モースを取り巻く登場人物も、シリーズの読みどころです。テムズバレー警察本部の主な3人を紹介します。
- ルイス部長刑事…モースとは正反対の実直な性格。聞き込みなど粘り強い捜査を好み、突飛な捜査をするモースに振り回されても彼を信じています。モースにとって直属の部下であり、最も信頼できる存在です。
- ストレンジ警視正…モースの上司。推理や捜査が脇にそれることもあるが、誰よりも早く真相にたどり着くと、その能力を高く評価しています。
- マックス警察医…モースの理解者であり友人の1人で、病理学者。被害者の死亡時刻をしつこく質問するモースにあきれながらも、軽くあしらっています。
コリン・デクスターのおすすめ作品14選(刊行順)

邦訳されている14作を、刊行順にあらすじつきで紹介します。シリーズを初めて読むなら第1作『ウッドストック行最終バス』から、受賞作から入るなら『オックスフォード運河の殺人』か『森を抜ける道』が入口になります。
『ウッドストック行最終バス』|シリーズ第1作(1975年)
若い2人の女性が、ウッドストックに行く最終バスに乗車しようとしていました。しかし、停留所で待っていてもバスが来ません。1人はヒッチハイクを企て、酒場で遺体となって発見。もう1人の女性は行方不明。所轄のモース主任警部が事件を担当しましたが、事故で入院する羽目に。療養中に仮説を立てて推理をし、事件の解決を試みますが…。
『キドリントンから消えた娘』|シリーズ第2作(1976年)
2年前にキドリントンを出たまま行方不明の女性、バレリー。彼女から自宅の両親あてに、心配しないようにという内容の手紙が届きます。前任の警部から引き継ぎをしたモースは、この手紙は偽物で彼女はすでにこの世にいないと推理。しかし、彼女をめぐる謎は意外な様相を見せ、モースの推理は目まぐるしく変化していきます。
『ニコラス・クインの静かな世界』|シリーズ第3作(1977年)
重度の難聴を抱えるニコラスクインは、海外学力検定試験の委員に選出されます。反対する者もいましたが、人柄や能力を高く評価する人も。クインは読唇術を使って仕事を順調にしていました。職について3か月が経ち、殺されてしまいます。モースと部下のルイスの捜査は難航します。
『死者たちの礼拝』|シリーズ第4作・シルバー・ダガー賞(1979年)
休暇中のモースは暇つぶしに教会に出かけます。前年に教会の一室で教区委員の刺殺体が見つかった事件を耳に挟みました。しかも、体内には致死量のモルヒネも検出され、確実に殺そうとしたのかどうか…。その後に牧師が墜落して亡くなったとのこと。モースは直観的に殺人事件と判断して捜査を進めますが、解決には程遠いようです。
『ジェリコ街の女』|シリーズ第5作・シルバー・ダガー賞(1981年)
パーティでジェリコ街に住む女性と知り合ったモース。彼女と気が合い、会う約束をしたモースは彼女の家に立ち寄りました。留守ではないかと、仕方なく警察での勤務に戻りますが、彼女は首つり自殺をしていた様子。モースは自殺という判断に納得せず、捜査担当者がいるにもかかわらず独自捜査をすることに…。
『謎まで三マイル』|シリーズ第6作(1983年)
オックスフォード大学の教授が失踪後、近くの運河から切断遺体が発見。遺留品からは教授の持ち物とおぼしき物があり、モースも教授が被害者として事件の捜査をしました。しかし、教授から生存を知らせる手紙が。主な容疑者は5人に絞られ、被害者と犯人は誰か、動機も何かわからず、捜査は困難を極めます。
『別館三号室の男』|シリーズ第7作(1986年)
年が明けてホテルの別館3号室に、大晦日の仮装コンテストで優勝した男の遺体が残されていました。モースはコンテスト参加者の中に犯人がいるのではと仮説を立てます。ただ、被害者も含め宿泊客はすべて嘘の名前を使い、被害者の妻とされていた人物も消え失せた様子。解決の手がかりは何もありません。
『オックスフォード運河の殺人』|シリーズ第8作・ゴールド・ダガー賞(1989年)
ゴールド・ダガー賞受賞作。胃潰瘍で倒れたモースは、命に別状はなくても入院を余儀なくされます。暇つぶしにアマチュアの研究者が書いた『オックスフォード運河の殺人』という本を読むことに。モースは著者がミスをしていることに気づきます。実際の殺人の犯人は誰なのか、安楽椅子探偵のモースの出した結末はどのようなものでしょうか。
『消えた装身具』|シリーズ第9作(1991年)
アメリカ人のツアー客の女性がホテルで死亡。殺人事件の可能性は低いですが、彼女の持っていたアンティークの装身具が盗まれてしまいます。モースは気乗り薄。しかし、女性から装身具を受け取る約束をした博物館員が遺体で発見。連続殺人と見立て、モースはツアー客たちを調べます。
『森を抜ける道』|シリーズ第10作・ゴールド・ダガー賞(1992年)
ゴールド・ダガー賞受賞作、日本国内でも人気で『このミステリーがすごい!』5位に選出。休暇中のモースは、失踪したスウェーデンの若い女性の真相を語る詩が警察に送付されたという新聞記事を目にします。女性は森の中で殺されて発見を待ち望んでいるという内容のもの。事態を重く見たモースは失踪した森を捜査し、白骨遺体を発見します。
『カインの娘たち』|シリーズ第11作(1994年)
大学教授が殺され、容疑者の男性も行方不明になり刺殺体で発見。2つの殺人では同じナイフが使われ連続殺人が疑われます。被害者を恨む3人の女性が容疑者に絞られますが、どの女性にも一見アリバイがあり犯行は不可能にかんじられますね。容疑者の1人に恋するモースの姿、50歳を過ぎて体調不良に悩まされる様子に心配する読者も。
『死はわが隣人』|シリーズ第12作(1996年)
本作はシリーズの最後の作品になる予定だったとのこと。愛読者の猛反対で撤回されました。オックスフォード大学の次期学寮長の選挙を巡る中で、女性が殺害される事件が発生。闘病しながらルイスと捜査をするモース。事件の解決だけでなく、ルイスとの強い結びつきがわかる作品です。
『悔恨の日』|シリーズ最終作(1999年)
病気療養で休むモースに上司のストレンジが事件の再調査を打診します。事件は1年前に起こった猟奇的な殺人で、看護師が自宅で夫に発見されたもの。いつもならモースが自ずと捜査を引き受けそうな事件ですが、あまり気が進まない様子。部下のルイスはそんなモースに不信感を抱きます。
本作はモースシリーズの最終巻でモースの死とともに完結します。モースの死後にある事実を知らされ、ルイスが彼の心情を想う姿が印象的です。
『モース警部、最大の事件』|唯一の短編集(1993年)
『モース警部、最大の事件』は、シリーズ唯一の短編集です。原書の刊行は1993年で、『森を抜ける道』(1992年)と『カインの娘たち』(1994年)のあいだにあたります。長編どうしのような話のつながりはないため、読む順番を気にせずどこで読んでも問題ありません。モースシリーズ以外のノンシリーズ、シャーロック・ホームズのパロディなどの11編が掲載されています。
表題作は、クリスマスの日に起こった酒場での盗難事件。寄付金と娘へのお見舞いのぶどうを入れたバッグから寄付金400ポンドを盗まれた女性。容疑者は店内の常連客30名で、どの人も動機がありお金を盗む機会がありました。居合わせたモースは事件の解決をしようとします。
編集長のひとこと:長いシリーズは1作目から順に買い足す
田中寛大オンライン古書店を運営していた時期(2019〜2022年)に、約2年半で8,000冊超を販売しました。出品から売れるまでの日数は中央値で37日、30日以内に売れたものが45%です。動く本は1か月強で動き、動かない本はそのまま滞留する。中古市場はきれいに二分されます。
モース警部シリーズのように14作ある長いシリーズは、全巻をいちどに揃えようとせず、1作目から順に買い足していくほうが結局は早く進みます。中古で探すときは、価格より先にコンディション表記を見てください。状態を『非常に良い』以上に絞れば、読書体験は新品とほとんど変わりません。販売した本の購入者評価は97%が肯定的で(累計189件・販売期間中の実績)、状態は想定以上に良好という声もいただきました。
コリン・デクスターとモース警部シリーズのよくある質問
- モース警部シリーズはどの順番で読めばいいですか?
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刊行順です。1作目は『ウッドストック行最終バス』(1975年)で、最終作は『悔恨の日』(1999年)。長編13作は後の作品で前作の事件に触れる場面があるため、刊行順に読むと結末を先に知らずに済みます。短編集『モース警部、最大の事件』は長編とのつながりがないため、順番を気にする必要はありません。
- コリン・デクスターの作品は全部で何作ありますか?
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邦訳されているのは長編13作と短編集1作の計14作です。いずれも早川書房から刊行されています。短編のなかには日本で未訳のまま残っているものもあります。
- コリン・デクスターの最初の1冊にはどれがおすすめですか?
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シリーズ第1作の『ウッドストック行最終バス』です。モースとルイスの出会いから読めます。受賞作から入りたい場合は、ゴールド・ダガー賞を受賞した『オックスフォード運河の殺人』(1989年)または『森を抜ける道』(1992年)を選ぶ方法もあります。
- コリン・デクスターはどんな賞を受賞していますか?
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英国推理作家協会(CWA)のゴールド・ダガー賞を2回(『オックスフォード運河の殺人』1989年、『森を抜ける道』1992年)、シルバー・ダガー賞を2回(『死者たちの礼拝』1979年、『ジェリコ街の女』1981年)受賞しています。1997年には、長年の功績に対して贈られるダイヤモンド・ダガー賞も受けました。
- モース警部シリーズはドラマ化されていますか?
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されています。英ITVの『主任警部モース』として、1987年から2000年にかけて全33話が放送されました。モース役はジョン・ソウ、ルイス役はケヴィン・ウェイトリーです。
コリン・デクスターが向いているのは推理の迷走を楽しみたい読者
コリン・デクスターの小説は、探偵役の推理が二転三転しながら真相に近づく過程そのものを味わいたい読者に向いています。犯人当ての切れ味よりも、直観で走っては修正するモースの捜査に付き合う時間が長く、その分だけ登場人物の人となりが立ち上がってくるシリーズです。オックスフォードという舞台の描写も濃く、英国ミステリーの空気を味わえます。
同じミステリーでも、殺人事件を扱わない作品から入りたい場合は日常の謎をテーマにした小説10選も参考にしてください。
※ 書誌情報は原書の刊行年にもとづいています。邦訳版の版元・レーベルは2026年9月時点の情報です。










