芋粥とは?芥川龍之介「芋粥」のあらすじを簡単に紹介!登場人物・解説・考察も

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人は誰しも、いつか叶えたい”夢”を持っているものです。その夢が叶ったとしても、新たな夢が生まれるのが常です。しかし、もし夢がたった1つしかなかったとしたら……どうでしょうか。

芥川龍之介の短編小説『芋粥』は、まさにそんな状況に直面した一人の人間の物語です。夢を失う危機に瀕した主人公の姿を通じて、人生の意味や目標の重要性を問いかけています。

本記事では、この深遠なテーマを扱った『芋粥』のあらすじを中心に、作品の魅力をご紹介します。芥川の巧みな筆致で描かれる人間の内面と、古典から紡ぎだされた物語の真髄をお楽しみください。

目次

芋粥あらすじの前にチェック1. 作品概要 : 題材となったのは『宇治拾遺物語』?

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『芋粥』は芥川龍之介の短編小説で、1916年9月に文芸誌『新小説』で発表されました。芥川は『新小説』への掲載を強く望んでおり、この作品の執筆に熱心に取り組みました。そのため、彼自身がこの作品に強い自信を持っていたとされています。

『芋粥』は『宇治拾遺物語』を題材としており、同年に発表された『鼻』とともに、芥川の古典翻案作品の代表作として知られています。これらの作品は、多くの読者に親しまれ、日本文学史上重要な位置を占めています。

芋粥あらすじの前にチェック2. 登場人物

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『芋粥』の主な登場人物をご紹介します。

1人目は物語の主人公である「五位」です。彼は藤原基経に仕える身分の低い役人で、周囲の人々から馬鹿にされています。

2人目は「藤原利仁」です。彼は五位と同じく藤原基経に仕える役人で、敦賀に館を構えています。

3人目は「」です。狐は、五位と藤原利仁が旅に出かける途中の山に登場し、最終的に五位を助ける存在になります。

芋粥のあらすじ

芋粥と冬の光

元慶の末から仁和のはじめの頃、摂政である藤原基経に仕える人物の中に某という五位の侍がいました。彼の風貌はだらしなく冴えないもので、侍所にいる者たちは五位に対して冷淡な態度をとっていました。

別当や司などの上役たちは五位に接する際、言語を使わずに身振り手振りでものをいいます。当然五位は彼らのいわんとすることを理解することができず、理解力のない人物として理不尽に突き放されてしまいました。しかし、上役たちの悪意を悪意と感じないほどに、五位は臆病な性格だったのです。

上役たちの態度とは裏腹に、同僚たちは明らかな嫌がらせを五位に仕掛けました。しかし、五位は彼らに対しても決して怒ることなく、ただ「いけぬのう、お身たちは。」というだけです。周囲の人に軽蔑されながら生きている五位でしたが、1つだけある希望をもっていました。

五位は、芋粥というものに異常なまでの執着心を持っていたのです。芋粥とは山芋を甘葛の汁で煮込んだもので、五位のような身分のものは滅多に口にすることができない代物でした。そんな芋粥を飽きるほど食べたいというのが、五位の唯一の欲望だったのです。

ある年の正月、藤原基経のもとに臨時の来客がありました。臨時の客には饗宴が催され、侍たちはその残飯を食べることが許されています。ここで五位はあの芋粥にありつくことができました。五位が口にできる芋粥の量は微々たるものでしたが、そのせいかいつもよりも美味しく感じられました。

五位が芋粥を一気に飲み干して「何時になったら、これに飽ける事かのう。」と呟くと、近くにいた藤原利仁が「お望みなら、利仁がお飽かせ申そう。」と声をかけてきました。五位は警戒しながらも欲望に勝つことができず、利仁の申し出に甘えることにしました。周囲の侍たちはいつも通り五位をからかっているようでしたが、彼らの揶揄など耳に入りません。五位は空になったお椀をいつまでも見つめて、他愛もなく微笑を浮かべていました。

それから数日後、利仁と五位の2人は馬に揺られて敦賀にある利仁の館に向かいました。道中で利仁は狐を捕まえて「客人を連れて行くので迎えに来るように。」と言付けをします。狐さえも自由に操ってしまう利仁をみて、五位はナイーヴな尊敬と賛嘆を漏らしました。

狐に言付けを頼んだ場所に着くと、利仁の迎えが待っていました。そのまま一行は利仁の館に向かい、一晩を過ごします。翌朝五位が目を覚ますと、朝食に大量の芋粥が用意されているではありませんか。五位は利仁に勧められて、無理やり大量の芋粥を口に運びました。

五位はすぐに満腹になりましたが、利仁は無理やり芋粥を飲ませようとしてきます。そのとき、不意にあの狐が現れて芋粥を飲み始めました。五位は芋粥を飲む狐を眺めながら、自分自身のことを振り返ります。

五位は周囲の人に馬鹿にされる哀れな男でありながら、芋粥に飽きたいと願う幸福な男でした。彼はこれ以上芋粥を飲まずに済むと思うと、安心感でいっぱいになったのです。

芋粥の解説・考察

家のソファで読書するおしゃれな日本人女性

芥川龍之介の『芋粥』は、「人間が持つ”夢”の限界」を巧みに描き出した作品だと考えられます。

主人公の五位は、周囲の人々から常に蔑まれ、哀れな人生を送っていました。しかし、彼は怒りを表すこともなく、自分の境遇を諦めて生きていました。そんな五位にとって、唯一の夢が「芋粥を飽きるほど食べること」でした。この小さな願いが、彼の日々の苦しみを乗り越える力となっていたのです。

ついに夢を叶える機会を得た五位でしたが、皮肉にも彼は躊躇してしまいます。「夢が実現されてしまえば、今までの辛抱が無駄になる」という思いに囚われたのです。この逆説的な心理は、人間の欲望の本質を鋭く突いています。

人間は本来、欲深い生き物です。五位の欲望は一見ささやかですが、彼にとっては生きる希望そのものでした。欲望を失うことは、生きる意味を失うことに等しいのです。五位はこの不安から、夢の実現を躊躇したのでしょう。

この作品は、”夢”の二面性を浮き彫りにしています。”夢”は人に希望を与え、前に進む力となります。しかし、一度実現してしまえば、たちまちその効力を失ってしまうのです。”夢”を持ち続けることで人生に意味を見出せる一方で、その”夢”を失う恐怖と常に隣り合わせで生きていかなければならない—これが人間の宿命なのかもしれません。

『芋粥』は、このような人間の複雑な心理と”夢”の本質を、静かに、しかし鋭く描き出した名作と言えるでしょう。

芋粥のあらすじ:まとめ

芥川龍之介の短編小説『芋粥』のあらすじを中心に、作品の本質に迫ってみました。

主人公の五位は、つらい現実と闘うための武器として”夢”を持ち続けました。その夢とは、一生に一度でいいから思う存分芋粥を食べたいというものでした。しかし皮肉なことに、五位はその”夢”が叶ってしまうという不安に駆られます。日々の苦しい生活の中で希望を与えてくれていた芋粥の存在が、彼の心の中でかなり大きなものになっていたのでしょう。

ただし、五位の周りの人間がすべて冷酷だったわけではありません。作中でも彼に同情を寄せる人物が描かれているように、現実世界でも必ず味方になってくれる人がいるはずです。

この物語は、私たちに大切な教訓を示しています。つまり、自分の中で大事にしている”夢”と、周りにいる人々の支えがあれば、どんな困難な状況でも乗り越えていけるということです。『芋粥』は、夢を持つことの意味と、人々とのつながりの重要性を静かに、しかし力強く訴えかける作品なのです。

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この記事を書いた人

金沢大学の文学部で近代文学を専攻していました。在学中の読書量は、年間約250作品を超えています。好きなジャンルは純文学とイヤミスで、作中から自分独自の解釈を生み出すことが私の読書の楽しみです。

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