芥川龍之介『芋粥』のあらすじを簡単に解説|登場人物と結末の意味

読書をする女性
  • URLをコピーしました!

『芋粥』は、芥川龍之介が1916年(大正5年)9月に雑誌『新小説』へ発表した短編小説です。『今昔物語集』巻二十六の説話を典拠とする古典翻案作品にあたります。

あらすじは一言でいえば、「芋粥を飽きるほど食べたい」という唯一の願いを持つ五位の侍が、藤原利仁に越前国敦賀へ連れて行かれ、山のような芋粥を前にして食欲を失う話です。願いが叶う直前こそが、その人をいちばん支えていた——という逆説を描いています。

この記事では作品概要・登場人物・あらすじを整理したうえで、芥川龍之介がこの短編で描いたものを本文に即して解説します。

次に読む一冊、迷っていませんか?

「雨音選書」は、2〜3分の読書タイプチェックをもとに、あなたに合う本をプロが選ぶパーソナル選書サービス。自分では出会えなかった一冊が、最短3日で届きます。

まずは無料の読書タイプチェックだけでもOK

目次

『芋粥』の作品概要|1916年発表・典拠は『今昔物語集』

窓際で読書のイメージ
項目内容
作者芥川龍之介
発表1916年(大正5年)9月、雑誌『新小説』
典拠『今昔物語集』巻二十六第十七話「利仁将軍若き時、京より敦賀に五位を将て行きたる語」。『宇治拾遺物語』巻一にも「利仁、芋粥の事」として類話がある
時代設定平安時代(元慶の末か仁和の初め)
舞台京都と越前国敦賀(現在の福井県敦賀市)
主人公摂政・藤原基経に仕える、名の伝わらない五位の侍(作中で40歳を越えている)
全文青空文庫で公開されている

同じ年に発表された『鼻』とあわせて、芥川の古典翻案の代表作として読まれてきました。『鼻』のほうも古典(『今昔物語集』『宇治拾遺物語』)を下敷きにしており、芥川龍之介『鼻』のあらすじの記事で解説しています。

『芋粥』の登場人物

人差し指でポイントを示す女性
人物立場物語での役割
五位摂政・藤原基経に仕える身分の低い侍。作中で名は明かされない主人公。40歳を越え、赤鼻を京童にまで笑われている。5〜6年前から芋粥に執着している
藤原利仁同じく基経に仕える武人。敦賀の人・藤原有仁の女婿五位のつぶやきを聞き、「お飽かせ申そう」と敦賀へ連れて行く
藤原有仁敦賀の人。利仁の舅敦賀の館の主。大量の芋粥を用意し、五位にすすめ続ける
阪本の野狐利仁が道中の枯野で生け捕りにした狐敦賀の館へ迎えの言付けを運ぶ。結末で軒に現れ、芋粥を振る舞われる
藤原基経摂政五位が仕える主人。物語の背景となる人物

『芋粥』のあらすじを簡単に解説

芋粥と冬の光

1. 京での五位|軽蔑される日々と、たったひとつの願い

元慶の末か仁和の初めの頃、摂政・藤原基経に仕える侍のなかに、五位の位を持つ男がいました。名は伝わっていません。赤鼻でみすぼらしい風貌のため、上役からは身振りだけであしらわれ、同僚からは嫌がらせを受け、道端の子どもにまで「この鼻赤めが」と罵られる立場です。

それでも五位は怒らず、「いけぬのう、お身たちは」と言うだけでした。そんな彼が5〜6年前から抱いていたのが、芋粥に飽きるほどありついてみたいという願いです。芋粥とは、山の芋を切り込んで甘葛(あまづら)の汁で煮た粥のこと。当時は最高のごちそうとされ、五位の身分では年に一度、わずかに口にできる程度でした。

2. 利仁の申し出|敦賀への旅と、狐への言付け

ある年の正月二日、基経の屋敷で「臨時の客」と呼ばれる饗宴が催されました。侍たちは残った料理を口にすることが許され、五位もわずかな芋粥にありつきます。飲み干した五位が「何時になったら、これに飽ける事かのう」とつぶやくと、居合わせた藤原利仁が「お望みなら、利仁がお飽かせ申そう」と声をかけました。

数日後、二人は馬で京を発ちます。行き先は、利仁が女婿として暮らす越前国敦賀でした。道中、利仁は枯野で狐を生け捕りにし、「客人を連れて行くので迎えをよこすように」と言付けます。狐まで意のままに動かす利仁に、五位は素直な尊敬を覚えました。言付けのとおり、翌日には迎えの一行が現れます。

3. 敦賀での結末|山のような芋粥を前に、食欲が消える

敦賀に着いた翌朝、五位が部屋の蔀を上げると、広庭には切り口三寸・長さ五尺の山の芋が二、三千本も積み上げられ、五斛納釜が五つ六つ並べられていました。何十人もの女たちが芋を刻み、甘葛を汲み入れ、芋粥を炊いています。その光景を見た時点で、五位の食欲は半分になってしまいました。

朝食の膳に運ばれてきたのは、銀の提になみなみと満たされた芋粥です。五位は口をつける前から満腹を感じ、それでも利仁と有仁にすすめられて、提の半分、さらに残りの三分の一と、いやいや飲み下しました。

なおもすすめようとする有仁を止めたのは、偶然でした。利仁が向かいの家の軒を指さし、そこに例の狐が座っていたのです。利仁は狐にも芋粥を振る舞わせます。芋粥を飲む狐を眺めながら、五位は敦賀へ来る前の自分を懐かしく振り返りました。愚弄され孤独ではあったけれど、芋粥に飽きたいという願いをひとりで大事に守っていた、幸福な自分をです。もう芋粥を飲まずに済むという安心とともに、五位は銀の提に向かって大きなくしゃみをします。

『芋粥』で芥川龍之介が描いたもの

家のソファで読書するおしゃれな日本人女性

『芋粥』の核心は、五位が敦賀に着いた夜の場面にあります。翌朝には願いが叶うと分かった五位が考えたのは、喜びではなく不安でした。本文では、あまり早く芋粥にありついてしまうと、「何年となく、辛抱して待つてゐたのが、如何にも、無駄な骨折のやうに、見えてしまふ」と表現されます。

  • 願いは、叶う前の状態こそが人を支える:五位を毎日の軽蔑から守っていたのは芋粥そのものではなく、「いつか飽きるほど飲みたい」という願いのほうだった。
  • 叶った瞬間に、支えは消える:山のような芋粥を見た時点で食欲は半減し、飲み終えたあとに残ったのは満足ではなく「もう飲まずに済む」という安心だった。
  • 救ったのは他人の善意ではなく偶然:五位に味方する人物は最後まで登場しない。彼を解放したのは、利仁がたまたま軒の狐を指さしたことだった。

芥川は、五位を憐れむでも笑うでもなく、「憐む可き、孤独な彼」であると同時に「幸福な彼」でもあった、と両方を並べて書いています。教訓を示す物語ではなく、欲望のかたちをそのまま提示した短編として読むと、結末のくしゃみの後味が変わってきます。

監修者の視点:短編はあらすじの外側に核がある

田中寛大

短編の古典は、あらすじだけを追うと「結局どこが面白いのか」が抜け落ちやすいと感じています。

大学院で文献を読んでいた頃に身についたのは、結論そのものより手前の一段落をゆっくり読む癖でした。物語でも、事件が起きる場面ではなく、その直前に主人公が何を考えているかに核が置かれていることがよくあります。

『芋粥』は全文が青空文庫で公開されています。あらすじを読んだあとに一度原文を通してみると、要約からは落ちる細部の効き方が見えてくるはずです(小説の読み方のコツ)。

『芋粥』に関するよくある質問

『芋粥』のあらすじを簡単に教えてください。

芋粥に飽きるほどありつきたいという唯一の願いを持つ五位の侍が、藤原利仁に誘われて越前国敦賀へ向かい、山のような芋粥を用意されて食欲を失う話です。五位は「もう飲まずに済む」という安心とともに、願いを持っていた頃の自分を懐かしみます。

『芋粥』の芋粥とはどんな食べ物ですか?

山の芋を切り込み、甘葛(あまづら)の汁で煮た粥です。当時は最高のごちそうとされ、天皇の食膳にも上るものでした。五位のような低い身分では、年に一度の「臨時の客」の折に、喉を潤す程度しか口にできませんでした。

『芋粥』で芥川龍之介が伝えたいことは何ですか?

願いは叶う前の状態こそが人を支えている、という逆説です。五位を日々の軽蔑から守っていたのは芋粥そのものではなく「いつか飽きるほど飲みたい」という願いのほうで、それが叶う見通しがついた瞬間に食欲は半減してしまいます。教訓を説く物語ではなく、欲望のかたちをそのまま描いた作品として読むのが自然です。

『芋粥』の典拠になった古典は何ですか?

『今昔物語集』巻二十六第十七話「利仁将軍若き時、京より敦賀に五位を将て行きたる語」です。『宇治拾遺物語』巻一にも「利仁、芋粥の事」として類話が収められています。同じ1916年発表の『鼻』とともに、芥川の古典翻案の代表作とされています。

『芋粥』の結末で五位はどうなりますか?

五位は死んだり罰を受けたりはしません。利仁と有仁にすすめられるまま芋粥を飲み下したあと、軒に現れた狐に一同の注意が移り、それ以上飲まずに済みます。最後は安心して、銀の提に向かって大きなくしゃみをするところで終わります。

まとめ:『芋粥』は願いが叶う直前を描いた短編

『芋粥』は、1916年に芥川龍之介が『今昔物語集』の説話をもとに書いた短編です。芋粥に飽きたいという願いだけを支えに生きてきた五位が、その願いが叶う直前に食欲を失う——という筋書きで、欲望と幸福の関係を描いています。

あらすじだけなら数行で説明できる作品ですが、五位の赤鼻や結末のくしゃみといった細部は要約からこぼれ落ちます。青空文庫で全文が読めるので、続けて原文にあたってみてください。

📚 読者アンケート(30秒で完了)

※回答内容は個人を特定できない統計情報として、当メディアの記事内で紹介させていただく場合があります。

  • Amazonのアソシエイトとして、当メディアは適格販売により収入を得ています。
  • コンテンツ内で紹介した商品をご購入いただくと、売上の一部が運営会社(アマノート)に還元されることがあります。
  • 各商品の紹介文は、公式サイト等の情報を参照して作成しております。
  • 掲載情報は、アマノートが独自にリサーチした時点のものです。価格変動やその他の理由により、実際の情報と異なる場合があります。最新の価格、商品詳細、およびサービス内容については、各公式サイトでご確認ください。
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次