芥川龍之介『河童』のあらすじと解説|登場人物・結末・河童忌とは

室内で本を読む女性
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『河童』の作者は芥川龍之介です。1927年(昭和2年)3月に雑誌『改造』へ発表された、序と17の章からなる中編小説で、「どうか Kappa と発音して下さい。」という副題が添えられています。

あらすじは、精神病院に入院する患者・第23号が語る話を「僕」が書きとめた、という形式をとります。穂高山へ登ろうとした第23号は河童を追ううちに河童の国へ迷い込み、6匹の河童と交わったのち人間の世界へ戻ってくる——という筋書きです。

この記事では作品概要・登場人物・あらすじを整理し、河童の国が何を映していたのか、芥川の命日が「河童忌」と呼ばれる理由までを解説します。

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目次

『河童』の作品概要|1927年発表・序と17章の中編小説

項目内容
作者芥川龍之介
発表1927年(昭和2年)3月、雑誌『改造』
ジャンル中編小説(風刺小説)
構成序+第一章〜第十七章
副題どうか Kappa と発音して下さい。
語りの形式精神病院の患者・第23号が語る話を「僕」が書きとめた体裁
舞台上高地から穂高山へ向かう梓川の谷と、河童の国
全文青空文庫で公開されている

『河童』が発表された1927年は、芥川龍之介が亡くなった年でもあります。そのため7月24日の命日は「河童忌」と呼ばれています。

同じく芥川が晩年に書いた作品としては『歯車』が知られています。こちらの展開や背景は芥川龍之介『歯車』のあらすじの記事で解説しています。古典を下敷きにした初期の代表作としては芥川龍之介『芋粥』のあらすじもあわせてどうぞ。

『河童』の登場人物|6匹の河童と語り手の第23号

家のソファで読書するおしゃれな日本人女性

河童の国には、人間社会とほぼ同じ職業と立場があります。第23号が親しくなるのは、次の6匹です。

名前職業・立場物語での役割
第23号精神病院の患者(30歳を越えている)語り手。河童の国での体験を「僕」に語る
バッグ漁夫第23号に河童の言葉を教える。帰り道を紹介するのもバッグ
チャック医者倒れた第23号が運び込まれた家の主
ラップ学生第23号の世話を焼き、詩人のトックを紹介する
トック詩人第23号と親しくなるが、自宅でピストル自殺する
ゲエル資本家(硝子会社の社長)第23号が好意を持つ河童。実業の側から国の仕組みを見せる
マッグ哲学者トックの死の場面で、河童以外の何ものかの力を信じることを説く

『河童』のあらすじ

河原で本を読む女性

1. 河童の国へ迷い込む

3年前の夏、第23号はリュックサックを背負い、上高地の温泉宿から穂高山へ登ろうとしていました。穂高山へ向かうには梓川を溯るしかありません。朝霧の下りた谷を案内者なしで登っていくと、目の前に河童が現れます。

夢中で追いかけるうち、第23号は大きな穴に落ちて気を失いました。目を開けると仰向けに倒れたまま、大勢の河童に囲まれています。担架で運び込まれたのは、医者のチャックの家でした。

2. 特別保護住民としての暮らし

第23号は「特別保護住民」として河童の国に住むことになります。漁夫のバッグから河童の言葉を教わり、学生のラップの世話になり、ラップの紹介で詩人のトックと親しくなりました。硝子会社の社長ゲエルにも好意を持ち、哲学者のマッグとも交わります。

河童の国には出産・恋愛・労働・宗教・芸術と、人間社会に対応するものが一通りそろっています。ただしその作法は人間とはことごとく食い違っており、第23号はそのたびに驚かされることになります。

3. トックの死と、人間界への帰還

ある日、トックの家から鋭いピストルの音が一発響きました。駆けつけると、トックは右手にピストルを握り、頭の皿から血を出したまま、高山植物の鉢植えの中に仰向けになって倒れています。

その死骸を見つめたまま、哲学者のマッグはこう言いました。「我々河童はなんと言つても、河童の生活を全うする為には、とにかく我々河童以外の何ものかの力を信ずることですね。」

やがてトックの家に幽霊が出るという噂が流れはじめます。この国にいるのが憂鬱になった第23号は、バッグに紹介された河童のもとから人間の世界へ戻りました。しかし帰還後は精神病院に入れられ、S博士から「早発性痴呆症」(当時の呼称)と診断されます。

第23号のもとには、今も河童たちが見舞いに訪れるといいます。医者の河童チャックは、早発性痴呆症なのはS博士をはじめとするあなたがた自身のほうだ、と言っていた——第23号はそう語ります。ただし河童が持ってきたという花束は、机の上に見当たりません。

『河童』の解説|河童の国は人間社会の写し

木目調のテーブルに置かれた白い本

副題の「どうか Kappa と発音して下さい。」からは、民話的な妖怪ではなく、ひとつの生き物として読んでほしいという構えが読み取れます。実際、作中で第23号は河童を「未だに実在するかどうかも疑問になつてゐる動物」と説明し、その体のつくりや習性を淡々と紹介していきます。

河童の国に用意されているのは、出産・恋愛・労働・宗教・芸術といった、人間社会にあるものと同じ枠組みです。そこで起きることが人間の常識とずれているほど、読者は自分の側の常識のほうを意識させられます。河童の国を描きながら人間社会を映す、という構造がこの作品の骨格です。

結末が効いてくるのもこの構造ゆえです。S博士から見れば第23号は明らかに異常ですが、第23号から見ればS博士たちのほうが異常だということになります。作中に、どちらが正しいかを決める視点は用意されていません。ひとつの共同体の中でさえ噛み合わない者たちが、別の共同体を理解するのは難しい——結末はそのことを読者に残します。

河童忌とは|芥川龍之介の命日7月24日の呼び名

河童忌とは、芥川龍之介の命日である7月24日の呼び名です。芥川は1892年3月1日に生まれ、1927年7月24日に亡くなりました。同じ年の3月に発表された『河童』にちなんで、この名で呼ばれています。

『河童』を晩年の芥川と重ねて読む見方は根強くあります。ただし作中に自伝的な説明があるわけではないため、まずは河童の国の描写そのものを追うほうが、作品の輪郭はつかみやすくなります。

監修者の視点:語り手を疑いながら読む

田中寛大

『河童』のように、語り手が信用できるかどうかを読者に委ねる小説があります。こうした作品は、書いてあることをそのまま受け取るか、留保をつけて読むかで印象が変わります。

大学院で文献を読んでいた頃に叩き込まれたのは、その情報を誰が言っているのかを常に確認する癖でした。『河童』の場合、河童の国の描写はすべて、精神病院にいる第23号ひとりの語りとして提示されています。

あらすじだけを追うと不思議な冒険譚に見えます。語りの枠を意識したうえで原文にあたると、受け取り方が変わるはずです。全文は青空文庫で読めます。

『河童』に関するよくある質問

『河童』の作者は誰ですか?

芥川龍之介です。1927年(昭和2年)3月に雑誌『改造』へ発表しました。序と第一章から第十七章までで構成される中編小説で、「どうか Kappa と発音して下さい。」という副題が付いています。

『河童』のあらすじを簡単に教えてください。

精神病院の患者・第23号が語る体験談という形式の物語です。穂高山へ登ろうと梓川の谷を進んでいた第23号は、河童を追ううちに穴へ落ちて河童の国へ迷い込みます。漁夫のバッグや医者のチャックら6匹の河童と交わりますが、詩人トックの自殺をきっかけに国にいるのが憂鬱になり、人間の世界へ戻ります。

河童忌とは何ですか?

芥川龍之介の命日である7月24日の呼び名です。芥川は1927年7月24日に亡くなり、同じ年の3月に発表した『河童』にちなんでこう呼ばれています。

『河童』に出てくる河童の名前と職業を教えてください。

主に6匹です。漁夫のバッグ、医者のチャック、学生のラップ、詩人のトック、硝子会社の社長で資本家のゲエル、哲学者のマッグが登場します。河童の国には人間社会と対応する職業や制度が一通りそろっています。

『河童』の結末はどうなりますか?

第23号は人間の世界へ戻りますが、精神病院に入れられ、S博士から「早発性痴呆症」(当時の呼称)と診断されます。本人は河童たちが今も見舞いに来ると語る一方、河童が持ってきたという花束は机の上に見当たりません。どちらが正常なのかを決める視点は、作中に用意されていません。

まとめ:『河童』は河童の国を通して人間社会を映す

『河童』は、芥川龍之介が1927年3月に『改造』へ発表した序+17章の中編小説です。河童の国という別の共同体を細かく描くことで、読者に自分の側の常識を意識させ、最後まで正常と異常の判定を保留したまま終わります。

全文は青空文庫で読めます。日本近代文学の名作をもう少し辿ってみたい人は、一度は読むべきおすすめの本もあわせて参考にしてみてください。

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