ロシア文学で最も有名な作家は、プーシキン、ゴーゴリ、ツルゲーネフ、ドストエフスキー、トルストイ、チェーホフの6人です。いずれも19世紀に活動し、この時代はロシア文学の黄金期と呼ばれています。
最初の1冊には、ツルゲーネフの『初恋』をおすすめします。中編で分量が抑えめのうえ、登場人物が少なく、ロシア文学でつまずきやすい人名の多さに悩まされません。この記事では有名作家と代表作の一覧、選び方、おすすめ10作を紹介します。
ロシア文学とは|19世紀に黄金期を迎えた世界文学

ロシア文学とは、ロシア語で書かれた文学作品の総称です。近代ロシア文学の基礎はプーシキンが築いたとされ、19世紀にはゴーゴリ、ツルゲーネフ、ドストエフスキー、トルストイ、チェーホフが相次いで登場しました。この時期は一般に「ロシア文学の黄金時代」と呼ばれます。
ロシア文学の3つの特徴
国や時代が離れていても読み継がれているのは、次の3つの性格によるところが大きいといえます。
- 社会と歴史が物語の土台にある…ナポレオン戦争、農奴解放、革命前夜。個人の物語が時代の動きと直結している
- 宗教と思想を正面から扱う…ロシア正教の影響が濃く、罪・赦し・信仰といった主題が登場人物の行動を決める
- 長編と短編の落差が大きい…『戦争と平和』のような大長編がある一方、チェーホフやツルゲーネフには数十ページで読める作品も多い
有名なロシア文学の作家6人と代表作
作家名から作品にたどり着きたいときは、次の一覧が目安になります。生きた時代の順に並べました。
| 作家 | 生没年 | 代表作 | 作風 |
|---|---|---|---|
| プーシキン | 1799〜1837年 | エフゲニー・オネーギン | 近代ロシア文学の出発点。韻文で書かれた恋愛小説 |
| ゴーゴリ | 1809〜1852年 | 外套/死せる魂 | 小役人や地方社会を描く風刺と幻想 |
| ツルゲーネフ | 1818〜1883年 | 父と子/初恋 | 西欧的で端正な文体。中編が多く読みやすい |
| ドストエフスキー | 1821〜1881年 | 罪と罰/カラマーゾフの兄弟 | 思想と心理を突き詰める長編 |
| トルストイ | 1828〜1910年 | 戦争と平和/アンナ・カレーニナ | 歴史と家庭を同時に描く大長編 |
| チェーホフ | 1860〜1904年 | かもめ/桜の園 | 短編と戯曲。事件を書かずに人生を描く |
国際的な評価の指標としては、ノルウェー・ブック・クラブが2002年に発表した「世界最高の文学100冊」があります。54か国の作家100人の投票で選ばれたリストで、このなかでドストエフスキーはリスト最多となる4作品、トルストイは3作品が選ばれています。
ロシア出身のノーベル文学賞受賞者は5人
20世紀に入ってからも、ロシア・ソビエトからは次の作家がノーベル文学賞を受けています。
- イワン・ブーニン(1933年)
- ボリス・パステルナーク(1958年)
- ミハイル・ショーロホフ(1965年)
- アレクサンドル・ソルジェニーツィン(1970年)
- ヨシフ・ブロツキー(1987年)
19世紀の作家に比べると日本での知名度は下がりますが、ソビエト期のロシア文学を知りたい場合はこの5人が起点になります。
ロシア文学の選び方は3通り

作品数が多いため、選ぶ軸を決めないと迷います。次の3つのどれかで絞り込むのが実際的です。
- 有名作家から選ぶ…ドストエフスキーとトルストイの代表作から入る。まず短編・中編を試すと負担が小さい
- 時代から選ぶ…19世紀の黄金期か、20世紀のソビエト期か。同じ時代の作品を続けて読むと背景知識が使い回せる
- 映像化作品から選ぶ…『アンナ・カレーニナ』『戦争と平和』は繰り返し映画化されている。映像で筋をつかんでから原作に入る方法もある
ロシア以外の海外文学にも手を広げたい場合は、トルーマン・カポーティの代表作7選のように、短編から入れる作家を選ぶと切り替えが楽になります。
一度は読みたいロシア文学おすすめ10選

黄金期の作家を中心に10作を選びました。分量が短い『初恋』『イワン・イリイチの死』『かもめ』から入り、慣れてから長編へ進む順序をおすすめします。
『罪と罰』(ドストエフスキー)
貧しい大学生ラスコーリニコフが、選ばれた人間には常識を超える権利があるという考えに取り憑かれ、高利貸しの老婆を殺害します。物語の中心は事件そのものではなく、その後に主人公を追い詰めていく内面の動きです。
犯罪小説の原型とされる長編で、ドストエフスキーの代表作です。事件から自白までの心理を追う構成は、後の推理小説にも影響を与えました。
『戦争と平和』(トルストイ)
ナポレオンのロシア侵攻を背景に、貴族の若者たちの恋愛と成長を描いた大長編です。戦場の描写と社交界の描写が交互に進み、歴史そのものが何によって動くのかという問いが全体を貫きます。
日本語訳は文庫で4巻から6巻に分かれます。分量はありますが、映像化作品が多く、あらすじを先に押さえてから読み始める方法も取れます。
『イワン・イリイチの死』(トルストイ)
出世街道を歩んできた裁判官イワン・イリイチが、不治の病で死を意識しはじめてから、自分の人生の中身を問い直していく中編です。
100ページ前後で読み切れる分量ながら、トルストイの主題が凝縮されています。長編に進む前の1冊としても選びやすい作品です。
『ロリータ』(ナボコフ)
中年男ハンバートが、12歳の少女ドロレスに執着していく物語です。語り手自身の言葉で語られるため、読者は倒錯した論理の内側に置かれたまま進むことになります。
ロシア出身のナボコフが英語で書いた小説で、厳密にはアメリカ文学に分類されます。それでもロシア文学の文脈で語られることが多く、TIME誌の「All-TIME 100 Novels」にも選ばれています。
『エフゲニー・オネーギン』(プーシキン)
都会育ちで何にも本気になれない青年オネーギンと、田舎の純真な娘タチヤーナ。すれ違ったまま時間だけが進む2人の関係を、韻文の形式で描いた作品です。
近代ロシア文学の出発点とされる作品で、当時のロシア社会の風俗が細かく写し取られています。チャイコフスキーによってオペラ化されたことでも知られます。
『父と子』(ツルゲーネフ)
既存の価値をすべて否定する青年バザーロフと、保守的な父親世代との対立を描いた長編です。世代間の断絶という主題を、どちらか一方を悪者にせずに書ききっています。
19世紀ロシアの社会状況が背景にありますが、話の骨格は現代でもそのまま通じます。ツルゲーネフの代表作です。
『カラマーゾフの兄弟』(ドストエフスキー)
父親殺しの事件を軸に、性格も思想もまったく違う3人の兄弟が向き合う長編です。信仰と懐疑、善と悪という主題が、裁判の進行とともに正面から論じられます。
ドストエフスキー最後の長編で、未完の続編構想があったことでも知られます。分量はありますが、章ごとの起伏が大きく読み進めやすい構成です。
『初恋』(ツルゲーネフ)
16歳の少年ウラジーミルが、隣家に越してきた年上の令嬢ジナイーダに恋をします。相手には別に想う人がおり、その正体が明らかになったとき、少年の世界が一変します。
100ページ台の中編で、登場人物も少なく、ロシア文学の入口としてもっとも選びやすい1冊です。人名に慣れるための最初の作品としても向いています。
『かもめ』(チェーホフ)
湖畔の屋敷を舞台に、作家志望の青年と女優を目指す少女、そして売れっ子作家と大女優の四者が絡む戯曲です。誰も望んだ場所にたどり着けないまま、時間だけが過ぎていきます。
1896年の初演以来、世界中で上演され続けている作品です。戯曲なので会話だけで進み、小説より短時間で読み終えられます。
『アンナ・カレーニナ』(トルストイ)
高官の妻アンナと、青年将校ヴロンスキーの恋を軸にした長編です。アンナの物語と並行して、地主リョーヴィンが土地と信仰に向き合う筋が進み、2つの人生が対比されます。
繰り返し映画化されてきた作品で、冒頭の一文はロシア文学でもっとも有名な書き出しの一つとして知られています。
編集長のひとこと:ロシア文学は訳者と版を先に比べる
田中寛大大学院で翻訳された理論書を読み続けた経験からいうと、同じ原書でも訳者が違えば読み進められる速度はまったく変わります。古い訳が劣っているわけではなく、文体が現在の日本語から離れているぶん、内容以外のところに負荷がかかるということです。
ロシア文学は新訳が数多く出ている分野です。書店や図書館で同じ作品の複数の版を並べ、最初の数ページを読み比べてから買う版を決めると、途中で止まる確率が下がると感じています。人物一覧が巻頭に付いている版を選ぶのも有効です。
ロシア文学に関するよくある質問
- 有名なロシア文学の作家と作品は何ですか?
-
作家はプーシキン、ゴーゴリ、ツルゲーネフ、ドストエフスキー、トルストイ、チェーホフの6人が代表的です。作品では『罪と罰』『カラマーゾフの兄弟』(ドストエフスキー)、『戦争と平和』『アンナ・カレーニナ』(トルストイ)、『父と子』(ツルゲーネフ)、『かもめ』(チェーホフ)がよく挙げられます。
- ロシア文学の初心者は何から読めばいいですか?
-
ツルゲーネフの『初恋』からがおすすめです。100ページ台の中編で登場人物も少なく、ロシア文学でつまずきやすい人名の多さに悩まされません。ほかに短時間で読み切れる作品としては、トルストイ『イワン・イリイチの死』やチェーホフの戯曲『かもめ』があります。
- 登場人物の名前が長くて覚えにくいのですが、どうすればいいですか?
-
巻頭の人物一覧にしおりを挟み、いつでも戻れるようにするのが確実です。ロシア語の人名は「名前+父称+姓」に加えて複数の愛称が入れ替わって使われるため、同じ人物が何通りにも呼ばれます。人物紹介が詳しい新訳版を選ぶか、読みながら簡単な相関図を書き出す方法も有効です。
- ドストエフスキーとトルストイはどちらから読むのがおすすめですか?
-
読みたい主題で選ぶのが確実です。人間の内面や罪の意識といった心理・思想寄りのテーマならドストエフスキー、歴史を背景にした群像劇や恋愛劇ならトルストイが向いています。どちらも長編が中心なので、まずは中編の『イワン・イリイチの死』で文体を試す方法もあります。
- 翻訳が古くて読みにくそうですが、版の選び方はありますか?
-
近年出た新訳版を選ぶのが解決策です。古典の旧訳は文体が硬く、内容以前のところで負荷がかかることがあります。新訳は現代の日本語に近い訳文で、人物紹介や訳注が充実している版も多くあります。書店で同じ作品の数種類を並べ、最初の数ページを読み比べてから決めるのが確実です。
- ロシア文学にノーベル文学賞の受賞者はいますか?
-
います。イワン・ブーニン(1933年)、ボリス・パステルナーク(1958年)、ミハイル・ショーロホフ(1965年)、アレクサンドル・ソルジェニーツィン(1970年)、ヨシフ・ブロツキー(1987年)の5人です。いずれも20世紀の作家で、19世紀の黄金期の作家は同賞の創設前に活動していました。
まず1冊選ぶなら『初恋』
ロシア文学は長編のイメージが強い分野ですが、実際には100ページ台で読み切れる中編や戯曲も多く残されています。人名と時代背景に慣れてしまえば、長編への抵抗はかなり下がります。
最初の1冊はツルゲーネフの『初恋』を選び、慣れたら『罪と罰』か『アンナ・カレーニナ』へ。訳者と版を読み比べてから買うと、途中で止まりにくくなります。
ロシア文学のほかに、ヨーロッパの異なる国の名作にも触れてみたい方は、スペイン文学のおすすめもあわせて参考にしてみてください。











