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芥川龍之介の短編小説10選!サクッと読みたい方にもおすすめ!
芥川龍之介は、300を超える短編小説を書き、短編小説の名手とも呼ばれています。
小中学生の課題図書や教科書などで、目にする機会が多いかもしれません。
10分程度で読める作品の中にも、描写が見事で印象に残る小説もあります。
教科書や課題図書以外に、他の短編も読んでみたいと感じる方もいるのではないでしょうか。
こちらでは、おすすめの芥川龍之介の短編小説を10編厳選し、紹介しています。
芥川龍之介のおすすめ短編10選
芥川龍之介は短編小説の名手とも評されています。
人気がある中のうち、読みやすい10選を紹介します。
蜘蛛の糸
ある時、お釈迦様が極楽の池から地獄を覗くと、カンダタという重罪人が苦しんでいました。
この男は小さな蜘蛛を殺さずに助けたという、たった1つだけ良いことをしたのです。
お釈迦様が慈悲の心から、その蜘蛛の糸を地獄にたらして、彼を救い出そうとするのですが…。
『蜘蛛の糸』は、芥川龍之介が初めて書いた子供向けの短編小説。
アメリカ人作家のポール・ケーラス作の『カルマ』(邦題『因果の小車』)の中の1編を原案にしたということです。
地獄変
絵仏師の良秀は、天下一品の腕前と評判でした。
堀川の大殿に寵愛を受けた美しく優しい性格の娘がいましたが、彼女は大殿になびかず、良秀も娘を家に戻してほしいと願い出ています。
ある時、堀川の大殿は地獄変の屏風絵を良秀に依頼しました。
良秀は、燃え盛る牛車の中で苦しむ女房の絵がうまく描けないことに悩みます。
堀川の大殿は良秀親子に企むところがあり、その情景の再現を約束するのです。
地獄変は『宇治拾遺物語』の「絵仏師良秀」を下敷きにしています。
「芸術のためには家族を犠牲にしてもかまわない男の話」ですが、芥川龍之介が描く良秀はどうなのでしょうか。
鼻
京都の高僧「禅智内供(ぜんちのないぐ)」は、自分の長く大きな醜い鼻をしていました。
陰で人に笑われ、あえて平然と振る舞ってはいましたが、ひどく傷ついていたのです。
ある日、医者に鼻を短くするやり方を聞き、念願かなって人並みの鼻になります。
これで笑われなくなる…と喜ぶ禅智内供。
しかし、表向きは全然気にしていないふりして、本当は違かったのかと、余計に笑い者になるのです。
『鼻』は夏目漱石から、人の心の描き方を絶賛された小説。
「幸せな人を見ると妬み、人の不幸は蜜の味というように嘲笑って喜ぶ」、一般的な人間の心理を表現しています。
また、どんな身分のある人でも、プライドが高いのはとても愚かであることも主張したいようですね。
トロツコ
工事現場の近くに住む良平という少年は、作業現場のトロッコが気になって仕方なくなりました。
建設現場の工員に頼んで、一緒に動かしてもらえることになります。
とても喜びましたが、家から離れるにつれて不安になります。
工員から自分たちは現場に宿泊できるが、お前は家に1人で帰らなければならないと告げられます。
不安が的中し、日が暮れて暗くなるなか一生懸命家に向かって走り、やっとの思いで家に入るのです。
大人になった良平は仕事に疲れると、ひとりでに当時険しい道を辿ったことを思い出します。
『トロツコ』は大正時代の線路工事が舞台となった小説。
湯河原出身の雑誌記者が、鉄道の建設を見学した思い出を芥川龍之介に話し、そこから小説にしたということです。
蜜柑
主人公の「私」は、自分の退屈な人生に疲れを感じていました。
電車の出発直前に、田舎じみた女の子が慌てて乗車して、目の前に座ります。
ただでさえ疲れているのに、私はますます不愉快な気分になるのです。
女の子は鉄道の蒸気が入ってくるのにも関わらず、むりやり窓を開けてしまいました。
もくもくと灰色の煙が入ってくるのにも気にせず、手にしていた風呂敷から鮮やかな色の蜜柑を投げます。
踏切の辺りで、小さな子どもたちの歓声が聞こえてきます。
奉公に出なくてはいけない女の子が、小さな兄弟に別れの品を投げたようです。
私はすっかり気分が良くなりました。
芥川龍之介は、横須賀の海軍士官学校に教師として電車通勤をしていたので、そこから着想を得たのかもしれません。
灰色の無彩色の煙と鮮やかな蜜柑の色の対比が見事。
気持ちが明るい方に向くのが分かる描写ですね。
羅生門
平安時代、天変地異や飢饉のせいで都は荒廃しきっていました。
平安京の朱雀大路の羅生門で、貴族から解雇された下人が途方に暮れています。
お金もなく、仕事にもありつけず、盗賊になるしかないのではと思っていますが、勇気が出ません。
門の2階に行くと、数多くの遺体が打ち捨てられている中で、1人の老婆を見かけます。
彼女は、身寄りのない遺体から髪の毛を抜いてかつらを作って売ろうとしているとのこと。
下人は正義感から彼女に斬りかかりましたが、老婆は「生きるためには仕方がない。死んでいった人間も恨まないだろう。」と居直ります。
この言葉に下人も泥棒になる覚悟ができ、居直って老婆の着物を強奪します。
「自分もそうしなければ、生きていられないからな」と言い残して。
この小説では、限界まで追い詰められると、人間というものはとことん利己的になるということを表現しているかのようですね。
藪の中
舞台は平安時代、藪の中でみつかった侍の遺体。
捜査にあたった検非違使は、第一発見者の木こりの男、事件の前日に侍と馬に乗った女を見た旅の法師に話を聞きます。
また、部下の放免にも、男の衣服を身にまとった強盗の多襄丸を捕えた経緯を尋ねます。
被害者の身元は、高齢の女の証言で娘の婿の侍だと判明しますが、被害者の妻が見当たりません。
多襄丸、清水寺に逃げて自刃しようとした妻、巫女の口寄せで証言をした侍の魂も事の顛末を語りますが、目撃者の証言と違う部分があり、事実がさっぱりわかりません。
『藪の中』は、推理小説のように事件の解決を目的としたものではありません。
どのような意図でこの小説を書いたのかは分からず、今後の研究に委ねられているようです。
有識者の間では外から見た印象と、本当のことは違うことがあるということを書きたかったのではという説が有力です。
この小説により、関係者の証言が食い違いがあり真相が分からないという意味で「藪の中」という言葉が使われるようになりました。
ちなみに、映画の『羅生門』では、『藪の中』を下敷きにしている部分もあります。
河童
語り手は、精神病で入院している「第二十三号」と呼ばれる患者。
第二十三号が3年前に登山している際に、河童を見かけ後を追い、河童の国に迷い込んでしまいます。
河童は独自の言葉を持ち、文明が発達している様子。
また、お腹の中にいる子供に河童として生まれたいかどうか聞いて、生まれたくないと返答すれば中絶させられるといったことも行われています。
河童の世界に飽きた語り手は、だんだん若返った姿になっていく高齢の河童から、人間の世界への帰り道を教わります。
もう二度と来られないと念を押されても、元の世界に戻ります。
年を取った河童が心配したとおり、語り手は「河童が人間よりもより高潔な存在だ」と考えて河童の国を懐かしく感じ、戻りたいと思うようになるのです。
対人恐怖が増して病院に収監されてしまい、せめて、同じように発狂したとされる河童を見舞いたいと考えている様子です。
『河童』は当時の日本社会を批判した小説で、芥川龍之介の自殺する原因の1つではないかともいわれています。
芥川龍之介の命日の7月24日は、この小説にちなんで『河童忌』と呼ばれています。
芋粥
『芋粥』は、『鼻』と同じく、日本の古典『宇治拾遺物語』所収の話を下敷きにした小説です。
平安時代の五位(身分の低い役人)はうだつの上がらない男です。
同僚や道端にいる子供たちにも馬鹿にされる始末ですが、そんな彼の夢は腹いっぱい芋粥を食べること。
ふと望みをつぶやいたところ、裕福な藤原利仁からの招待を受けて彼の敦賀の領地まで出向きます。
しかし、大鍋いっぱいに出された芋粥を見て、彼の食欲は失せてしまうのです。
藤原利仁は大勢の前で、五位の役人の夢をあざ笑うように無理に招待します。
嫌味であるかのように大きな器に用意し、かえって食欲を失わせるのは、「芋粥を腹いっぱい食べる」という夢を無理に奪ってしまう行為にも見えますね。
杜子春
『杜子春』は中国の伝奇小説を、芥川龍之介が童話化した短編小説。
金持ちの息子だった杜子春は、親の遺産を遊びに使い、一文無しの状態になっていました。
門の側であった老人がと思春を憐れんで、この場所を掘るようにというと、荷車がいっぱいになるくらいの金品が出てきます。
3年後も再び同じようなことが繰り返され、また3度めもすっかり財産をなくしてしまいました。
杜子春は老人に話します。
お金がある時は周囲もちやほやするが、なくなるとすぐに離れていってしまう、と。
老人を仙人だと見破った杜子春は、自分も仙人になりたいので修行をさせてほしいと頼み、老人は快諾しますが…。
中国の小説と、芥川の小説では結末に違いがあります。
芥川の『杜子春』には、人に対する慈愛の心の大切さを訴えかけているように感じるかもしれません。
芥川龍之介の特徴
描写の仕方が面白い芥川龍之介の作品ですが、どのような特徴やエピソードがあるのでしょうか。
詳しく見てみましょう。
『新思潮派』と呼ばれている
『新思潮派』とは、東大の学生が発行した雑誌『新思潮』に参加した作家のこと。
作品はテーマを決めて描写をした小説、古典を題材にした小説などがあり、徹底的に架空の物語を作り込んでいきます。
理性的で、冷静な立場から書かれた小説が多く、作家の実際の人生や体験を、そのまま描く自然主義とは正反対の立場です。
芥川龍之介の小説は、論理的で分かりやすい文章が多いといわれています。
短編に傑作が多い
芥川龍之介の小説は、短編に傑作が多いのが特徴です。
新聞に連載された『邪宗門』や、前篇だけで終わった『路上』は、いずれも中編から長編小説として書かれる予定でしたが、未完に終わってしまいました。
登場人物の特徴や描写が鮮やかでわかりやすい短編小説を書いた名手でも、不得意な分野があるのですね。
俳句もたしなむ
短編小説に定評のある芥川龍之介ではありますが、俳句もたしなんでいます。
短い俳句の中でも、表現力は抜群です。
青蛙おのれもペンキぬりたてか
アオガエルのツヤのあるテカテカした緑色が、まるでペンキ塗りたてのように見えるという面白い句です。
色の描写が見事ですね。
水洟や鼻の先だけ暮れ残る
こちらの俳句は辞世の句といわれています。
「自嘲」と前書きが付けられ、暮れ時に鼻水が鼻の先に残っている寒々しく、情けないような感じがするかもしれません。
しかし、芥川龍之介が亡くなったのは7月、夏本番を迎える時期。
時期的に鼻水や風邪とは似つかないようにも見えますね。
もしかしたら、デビュー作の『鼻』を意識して、最期の作品も鼻に関する俳句で締めくくったのではないか、ともいわれています。
夏目漱石を尊敬している
芥川龍之介は自分を見出した夏目漱石を、生涯尊敬していました。
作品の中で『先生』と書かれています。
夏目漱石のお葬式では、受付を担当したほどです。
妻への遺書には「(作品の出版権は)岩波書店にのみ譲るように」と書かれていたとのこと。
これは「(夏目漱石)先生と出版会社を同じに」という希望があったということです。
まとめ
芥川龍之介のおすすめ短編10選と、作風について紹介しました。
久しぶりに再読するという方も、新しい発見があるかもしれません。
興味がありましたら、ぜひ読んでみてください。