イタリア文学は、中世ヨーロッパから現代まで続く豊かな文化遺産を持っています。ルネサンス期に花開いた人間中心の文芸思想は、世界文学に多大な影響を与えました。名作『神曲』から児童文学の傑作『ピノッキオの冒険』まで、多彩な作品群が魅力です。
今回は代表的な作家と、ぜひ読んでおきたいおすすめ作品を紹介します。
目次
イタリア文学の代表作家5選
イタリア文学を語る上で欠かせない5人の作家を取り上げます。中世の詩人から近代の小説家まで、時代を超えて愛される名著を生み出した彼らの功績を見ていきましょう。
ダンテ・アリギエーリ
13世紀から14世紀にかけて活躍した詩人で、イタリア文学最高峰の作家として知られています。代表作『神曲』は地獄・煉獄・天国を巡る壮大な叙事詩で、世界文学史上の傑作に数えられます。トスカーナ地方の方言で執筆したことで多くの市民に読まれ、現代イタリア語の基礎を築いたことから「イタリア語の父」と呼ばれています。
ジョヴァンニ・ボッカッチオ
14世紀イタリアの詩人で、『デカメロン』の作者として知られています。ペスト大流行を逃れた10人の男女が語る100の物語で構成された作品は、機知に富んだ話からエロティックな内容まで多彩です。社会風刺や教会批判を含むため発表当時は批判されましたが、後世の文学に大きな影響を与えています。
アレッサンドロ・マンゾーニ
19世紀イタリア最大の小説家として、ダンテと並び称される国民的作家です。代表作『いいなずけ』は現在も高校の教科書に採用され、ほぼすべてのイタリア国民が読む作品となっています。現代小説の基礎を築き、南北の言語統一を後押しした功績から、イタリア文学史上重要な位置を占めています。
カルロ・コッローディ
19世紀イタリアを代表する児童文学作家で、『ピノッキオの冒険』の生みの親として世界的に知られています。評価されるようになったのは死後、20世紀になってからでしたが、後世への影響は計り知れません。生前は児童教育と自国語の共通基盤を培うことに関心を抱いていました。
ウンベルト・エーコ
1980年に発表した『薔薇の名前』で世界的ベストセラー作家となった小説家です。記号学者でもあり、言葉の持つ重みを作品に反映させました。14世紀の修道院を舞台にしたミステリーは累計発行部数が5500万部を超え、暗号やトリックが仕掛けられた読みごたえ抜群の内容です。
一度は読みたいイタリア文学おすすめ作品10選
ここからは、イタリア文学を代表する名作を10作品紹介します。古典から児童文学、ミステリーまで幅広いジャンルを取り上げました。それぞれの作品が持つ魅力と、読みどころを解説していきます。
神曲
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ダンテ・アリギエーリが1304年頃から1321年頃にかけて執筆した叙事詩です。
地獄篇・煉獄篇・天国篇の三部構成で、作者自身を主人公とした壮大な物語が展開されます。暗い森で目覚めたダンテが古代ローマの詩人ウェルギリウスの案内で地獄と煉獄を旅し、最後は淑女ベアトリーチェの案内で天国へと入っていきます。キリスト教の教義を含み、世界の古典文学として最高傑作と評価されています。
デカメロン
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ジョヴァンニ・ボッカッチオが1348年から1353年にかけて執筆した作品です。
ペスト大流行を逃れた男性3人と女性7人が、10日間にわたって語り合う計100話の物語で構成されています。日によってテーマが決められており、落語のようなオチがあったり、機知に富んでいたり、エロティックなものもあります。1話ごとに完結しているため読みやすく、イタリア文学初心者にもおすすめできます。
いいなずけ
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アレッサンドロ・マンゾーニが1827年に刊行した作品で、現在も高校の教科書に採用されています。
17世紀のコーモ湖畔を舞台に、若者レンツォと婚約者ルチーアの波乱に満ちた逃避行が描かれます。美しいルチーアに横恋慕した領主の妨害により、2人は密かに村を脱出し、数々の困難に遭遇しながらも愛を貫こうとします。物語の面白さに加え、時代背景を理解することでより深く作品を味わえます。
薔薇の名前
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ウンベルト・エーコが1980年に発表したミステリー小説です。
修道士ウィリアムと弟子アドソが北イタリアの修道院を訪れ、怪死事件の調査を依頼されます。謎を解く鍵は一冊の本が握っているとのことで、入室を禁じられた文書館へ入ることを試みますが、次々と新たな事件が起こります。14世紀のキリスト教の分裂や教会の威圧的な支配を浮き彫りにしながら、暗号やトリックに驚愕する内容です。
ピノッキオの冒険
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カルロ・コッローディが1881年に「子ども新聞」に連載し、1883年に刊行された作品です。
大工の親方が作業を始めると、材料の棒切れが痛いと泣き叫び、皮をはぐとくすぐったいと笑います。ジェッペットが作った「ピノッキオ」と名付けた人形は、歩き方を習ったとたんに逃げ出してしまいます。原作のピノッキオは身勝手で後先を考えずに行動し、残酷な描写も含まれています。テンポの良いストーリー展開で、大人も楽しめる作品です。
ある家族の会話
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ナタリア・ギンズブルグが1963年に発表した自伝的小説で、イタリア文学界で権威ある「ストレーガ賞」を受賞しています。
ファシスト政権下のトリノで暮らすナタリアと家族の物語です。反ファシズム運動に傾倒する家族や知人が逮捕や亡命を余儀なくされ、ユダヤ系イタリア人として差別も受けるようになります。過酷な状況でも家族で交わされる会話は意外にもユニークで、クスリと笑えるシーンがたびたび見られます。
カンツォニエーレ
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14世紀イタリアの詩人フランチェスコ・ペトラルカの代表作です。
ペトラルカはダンテと並ぶルネサンス期の重要な詩人として知られています。『カンツォニエーレ』は「歌の本」を意味し、彼が一目惚れした女性ラウラへの叶わぬ愛を綴った366篇の詩から成ります。ペトラルカ式ソネットの形式を確立し、シェイクスピアをはじめ後世のヨーロッパ詩に多大な影響を与えました。
死の勝利
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ガブリエーレ・ダンヌンツィオが1894年に発表した長編小説です。
芸術家の主人公ジョルジョは、美しい人妻イッポリータと情熱的な恋愛関係にあります。彼女を愛しながらも、その愛に縛られることを恐れ、自由を求めて葛藤する姿が描かれます。ダンヌンツィオは日本の近代文学にも大きな影響を与え、夏目漱石、森鴎外、三島由紀夫などが彼の作品を愛読しました。耽美的で華麗な文体が特徴の作品です。
供述によるとペレイラは…
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アントニオ・タブッキが1994年に刊行した代表作で、複数の文学賞を受賞しています。
1938年のポルトガルを舞台に、政治に無関心だった新聞記者ペレイラが変化していく姿を描きます。文芸面担当のペレイラはレジスタンス活動家の青年ロッシを雇い、世話を焼くうちに反社会運動に巻き込まれていきます。繰り返される「供述によると」という文言が、彼は何の罪で供述をしているのかという不安を煽ります。
クオーレ
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エドモンド・デ・アミーチスが1886年に発表した児童文学作品です。
トリノの小学校に通う少年エンリコの1年間の日記という形式で、学校生活や友人たちとの交流が描かれます。貧しい家庭の子どもたちや身体に障害を持つ友人など、さまざまな境遇の子どもたちが登場し、友情や思いやりなどの道徳的価値が語られます。作中には「母を訪ねて三千里」の原作も含まれ、日本でも明治時代に翻訳されました。
イタリア文学に関するよくある質問
イタリア文学について、多くの読者から寄せられる疑問に答えます。初心者向けの作品選びから、イタリア文学が世界に与えた影響、作品を読む際のポイントまで、3つの質問を取り上げました。読書をより充実させるための参考にしてください。
イタリア文学の初心者におすすめの作品は何ですか
イタリア文学初心者には『デカメロン』や『ピノッキオの冒険』がおすすめです。
『デカメロン』は1話完結形式で読みやすく、機知に富んだ物語が楽しめます。『ピノッキオの冒険』はテンポの良いストーリー展開で、大人が読んでも深い内容です。翻訳の質も向上しているため、日本語訳でも十分に作品の魅力を味わえます。どちらも世界中で愛される名作なので、イタリア文学の入口として適しています。
イタリア文学が世界文学に与えた影響とは何ですか
イタリア文学はルネサンス期に人間中心の文芸思想を確立し、ヨーロッパ全体の文学に多大な影響を与えました。
ダンテの『神曲』はキリスト教の世界観を民衆の言葉で表現し、近代文学の基礎を築きました。ペトラルカが確立したソネット形式はシェイクスピアをはじめ後世の詩人たちに受け継がれています。ボッカッチオの『デカメロン』は物語形式の革新をもたらし、後の短編小説の発展に寄与しました。
イタリア文学作品を読む際のポイントは何ですか
イタリア文学作品を読む際は、作品が書かれた時代背景を理解すると深く味わえます。
中世やルネサンス期の作品では、キリスト教の教義や当時の社会構造が物語に大きく影響しています。また、イタリアは南北で文化や言語が異なっていた歴史があり、作品の舞台となる地域の特性も重要です。翻訳者によって文体が異なるため、複数の翻訳版を読み比べるのも楽しみ方のひとつです。
まとめ:イタリア文学おすすめ作品を手に取ろう
イタリア文学は中世から現代まで、人間の本質を描いた珠玉の作品群を生み出してきました。ダンテの『神曲』やボッカッチオの『デカメロン』は古典でありながら、現代にも通じる普遍的なテーマを扱っています。児童文学の『ピノッキオの冒険』も原作は大人が読んでも深い作品です。翻訳の質も向上しているため、ぜひイタリア文学の名作を手に取ってみてください。