大人が児童文学を1冊読むなら、『星の王子さま』(1943年)が確実です。分量が短く、もともと大人の読者を意識して書かれた作品だからです。もう少し長い物語を読みたいなら『赤毛のアン』(1908年)、冒険譚が好きなら『トム・ソーヤーの冒険』(1876年)が向いています。
この記事では、大人が読んでも読み応えのある児童文学10作品を、刊行年つきで紹介します。子どもの頃に読んだ作品でも、大人になってから読み返すと印象が変わります。
児童文学とは

児童文学とは、主に子どもを対象に書かれた文学作品のことです。冒険、友情、成長といったテーマを扱い、想像力をかき立てる物語が特徴です。
ただし、「児童文学」という分類は後から付いたものであることも珍しくありません。たとえば『赤毛のアン』(1908年)は児童向けに書かれた作品ではなく、ここ数十年のあいだに児童文学へ分類されるようになりました。『トム・ソーヤーの冒険』(1876年)にいたっては、著者のマーク・トウェイン自身が前書きで、かつて少年少女だった大人にも読んでほしいと述べています。大人が読むのは、けっして本来の読み方から外れた行為ではありません。
大人が児童文学を楽しむ魅力

児童文学の最大の魅力は、シンプルな中に普遍的なテーマが込められている点です。友情や愛、勇気といったテーマは、大人になっても変わらず私たちの心に響きます。さらに、児童文学は想像力をかき立てる描写が多く、日常生活の忙しさから離れて心を癒す効果もあるのです。
また、大人になってから再読することで、作者が作品に込めた深い意図や社会的背景に気づくこともあります。一見シンプルな物語でも、そこには哲学や人生観が反映されていることが少なくありません。児童文学は、何歳になっても新たな発見と感動を与えてくれるジャンルです。
おすすめの児童文学10選

紹介する10作品を、刊行年と国つきで一覧にしました。刊行年の古い作品ほど翻訳や表記が古びている場合があるので、読みにくさを感じたら新しい訳を探してください。
| 作品 | 著者 | 刊行年 | 国 | 分量 |
|---|---|---|---|---|
| 星の王子さま | サン=テグジュペリ | 1943年 | フランス(米で出版) | 短い |
| 赤毛のアン | L.M.モンゴメリ | 1908年 | カナダ | 長編 |
| はてしない物語 | ミヒャエル・エンデ | 1979年 | ドイツ | 長編 |
| トム・ソーヤーの冒険 | マーク・トウェイン | 1876年 | アメリカ | 長編 |
| 魔女の宅急便 | 角野栄子 | 1985年 | 日本 | シリーズ全6巻 |
| ライオンと魔女 | C.S.ルイス | 1950年 | イギリス | シリーズ第1作 |
| ムーミンシリーズ | トーベ・ヤンソン | 1945年〜 | フィンランド | シリーズ |
| エルマーのぼうけん | ルース・S・ガネット | 1948年 | アメリカ | 短い |
| グリム童話集 | グリム兄弟 | 1812年(初版第1巻) | ドイツ | 短編集 |
| あしながおじさん | ジーン・ウェブスター | 1912年 | アメリカ | 中編(書簡体) |
時間が取れないときは、分量の短い『星の王子さま』か『エルマーのぼうけん』から。腰を据えて読むなら『赤毛のアン』や『はてしない物語』が向いています。
『星の王子さま』 アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ
1943年4月6日にアメリカで出版された、サン=テグジュペリの代表作です。2022年時点で、初版以来200以上の国と地域の言葉に翻訳されています。「かんじんなことは、目に見えない」という趣旨の一節で知られ、哲学的な要素が強いことから大人のための童話とも呼ばれます。分量が短く1〜2時間で読み切れるため、久しぶりに本を読む人の1冊目にも向いています。
『赤毛のアン』 ルーシー・モード・モンゴメリ
カナダの作家L.M.モンゴメリが1908年に発表した長編小説です。もともと児童向けに書かれた作品ではなく、ここ数十年のあいだに児童文学として分類されるようになりました。想像力豊かなアンが織りなす日常は、ユーモアと感動に満ちています。大人になって読むと、親子関係や地域社会のつながりの描かれ方に気づかされます。
『はてしない物語』 ミヒャエル・エンデ
ドイツの作家ミヒャエル・エンデが1979年に発表したファンタジーです。現実と空想のあいだで葛藤する少年の成長を描いています。空想が現実に影響を与えるという主題は、大人が読むと別の意味を帯びてきます。この記事で紹介するなかではもっとも分量があるので、まとまった時間が取れるときに手に取ってください。
『トム・ソーヤーの冒険』 マーク・トウェイン
1876年に発表された、少年時代の冒険と自由を描いた作品です。少年少女向けの娯楽小説として書かれましたが、著者マーク・トウェインは前書きで、かつて少年少女だった大人にも読んでほしいと述べています。大人になって読むと、トムの大胆な行動がノスタルジーを呼び起こします。19世紀アメリカの風景描写も見どころです。
『魔女の宅急便』 角野栄子
親元を離れ、見知らぬ町で魔女として独り立ちしていく少女キキを描いた物語です。1982年から1983年にかけて『母の友』で連載されたのち、福音館書店からシリーズとして刊行されました。2009年10月の最終巻まで27年をかけて完結しており、キキが大人になっていく過程まで読めます。1989年のスタジオジブリ作品で知られていますが、原作を読むと物語の続きがあることに気づくはずです。
『ライオンと魔女』 C.S. ルイス(ナルニア国物語シリーズ)
1950年に出版された、ナルニア国物語7部作のうち最初に書かれた作品です。原題を直訳すると「ライオンと魔女と衣装だんす」になります。ライオンのアスランと子どもたちの冒険を通じて、正義や自己犠牲といった主題が描かれます。物語の時系列で読むなら『魔術師のおい』が先になりますが、初めて読む人は出版順どおり本作から入るほうが素直に楽しめます。
『ムーミンシリーズ』 トーベ・ヤンソン
スウェーデン系フィンランド人の作家トーベ・ヤンソンによる小説・絵本のシリーズです。1945年に第1作が発表されました。ムーミン谷の登場人物はそれぞれ独自の人生観を持っており、そのエピソードを通じて多様性や家族のあり方が描かれます。アニメの印象で手に取ると、原作の落ち着いた筆致に驚くかもしれません。
『エルマーのぼうけん』 ルース・スタイルス・ガネット
1948年にアメリカで出版された作品で、原題は「My Father’s Dragon(父さんのりゅう)」です。日本語版は渡辺茂男の訳で1963年に刊行されました。少年エルマーが持ち物を工夫して危機を切り抜けていく展開で、短く読み切れます。忙しい日常のなかで、ほっと一息つける一冊です。
『グリム童話』 グリム兄弟
正式なタイトルは『子どもと家庭のメルヒェン集』で、1812年に初版第1巻(86編)、1815年に第2巻(70編)が刊行されました。ここで押さえておきたいのは、グリム兄弟は昔話を収集したのであって、創作したわけではないという点です。そのため版によって内容が異なり、1857年の第7版が決定版とされています。初期の版には残酷な描写が残っているものもあり、大人の視点で読むと印象が大きく変わります。
『あしながおじさん』 ジーン・ウェブスター
アメリカの作家ジーン・ウェブスターが1912年に発表した作品です。主人公ジュディが後見人へ宛てた手紙で進む書簡体小説で、ユーモアを交えながら彼女の成長が描かれます。日本では1933年に岩波書店から遠藤寿子訳で初めて出版されました。女性の自立や当時の社会について考えさせられる一方、読後感は明るい物語です。
監修者の視点:子ども向けだから簡単、とは限らない
田中寛大古書店を運営していた時期(2019〜2022年)に扱った6,951タイトルのうち、2冊以上繰り返し売れたのは959タイトル、全体の13.8%でした。何度も買われるのは刊行時に話題だった本ではなく、長く読み継がれてきた本のほうです。ここで紹介した10作品は、いずれも刊行から数十年から100年以上たっています。
大人が児童文学を読むときは、子ども向けだから簡単だろうと構えないほうがいいと考えています。『はてしない物語』のように分量のある作品もありますし、グリム童話のように版によって中身が違うものもあります。まずは短い1冊から入って、読めた実感を作ってから長編に進むのが確実です。
児童文学を大人が読む際のポイント

大人になると、児童文学に描かれるテーマが自分自身の経験とリンクすることがあります。友情や愛、勇気、成長といった普遍的なテーマは、子ども向けに描かれていますが、大人として読むと別の視点から感じ取れます。登場人物の行動や感情を自分の体験と照らし合わせてみると、物語がより身近に感じられるでしょう。
また、児童文学は共通の話題として語りやすいジャンルです。子どもと一緒に読み聞かせをしたり、友人と感想を語り合うことで、物語への理解がさらに深まります。特に再読する場合には、他者の意見や感想が新しい視点をもたらし、自分ひとりでは気づかなかった魅力を発見できるかもしれませんよ。
児童文学の中には、心に残る美しい言葉やシーンが数多く登場します。気に入ったフレーズを書き留めたり、何度も繰り返し読むのがおすすめです。作品がより一層心に刻まれるでしょう。特に哲学的な作品では、後になって読み返すことで異なる意味が見えてくることもあります。 児童文学は長すぎず、テンポよく進む物語が多いのも特徴です。仕事や家事で忙しい大人でも、少しの時間で物語の世界に没頭でき、日常のストレス解消やリフレッシュにぴったりです。
大人が読む児童文学についてよくある質問
- 大人が読んでも面白い児童文学はどれですか?
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『星の王子さま』(1943年)です。哲学的な要素が強く、大人のための童話とも呼ばれます。長めの作品を読みたいなら『赤毛のアン』(1908年)と『はてしない物語』(1979年)、短時間で読み切りたいなら『エルマーのぼうけん』(1948年)が向いています。
- 児童文学は大人が読んでもいいのですか?
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問題ありません。そもそも大人の読者を想定して書かれた作品もあります。『トム・ソーヤーの冒険』(1876年)は著者マーク・トウェイン自身が前書きで、かつて少年少女だった大人にも読んでほしいと述べていますし、『赤毛のアン』(1908年)はもともと児童向けに書かれた作品ではありません。
- グリム童話が版によって違うと聞きましたが本当ですか?
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本当です。グリム兄弟は昔話を収集した編纂者であり、創作したわけではありません。1812年の初版第1巻(86編)以降、兄弟は7回にわたって改訂を重ねており、1857年の第7版が決定版とされています。どの版をもとにした本かによって、収録作や描写が異なります。
- 子どもの頃に読んだ本を読み返す意味はありますか?
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あります。当時は背景として読み流していた部分が、大人になると物語の中心に見えてくることがあります。たとえば『魔女の宅急便』は1989年のアニメ映画で知られていますが、原作は2009年の最終巻まで27年かけて刊行されており、キキが大人になっていく過程まで描かれています。同じ作品でも、読む年齢によって受け取るものが変わります。
まとめ
児童文学には、大人が読んでも読み応えのある作品が数多くあります。紹介した10作品は、いずれも刊行から数十年から100年以上を経て読み継がれてきたものです。まずは分量の短い『星の王子さま』か『エルマーのぼうけん』から手に取り、読めた実感ができたら長編に進んでください。子どもの頃に読んだ作品なら、なおさら印象が変わるはずです。
大人になってから読むとさらに心に響く、現代の青春小説もいかがでしょうか。住野よるのおすすめについては、下記の記事で詳しく解説しています。











