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京都や大阪を舞台とした作品を多く執筆している小説家・万城目学。青春ラブコメから時代小説まで、その作風は多岐にわたります。
複数の作品が映像化されているため、気になっている方が多いのではないでしょうか。
こちらの記事では、万城目学作品や魅力にくわえ、おすすめ小説10選をご紹介します。
万城目学(まきめまなぶ、1976〜)は大阪府出身の小説家です。
2006(平成18)年、京都を舞台にしたファンタジー小説『鴨川ホルモー』で第4回ボイルドエッグズ新人賞を受賞し、デビューしました。
京都大学法学部の出身で、大学の同級生にお笑い芸人・ロザンの宇治原さんがいます。
大学卒業後は会社勤めをしながら小説を書いていたものの、仕事が多忙になり執筆の時間がとれなくなったため、退職・上京しました。
退職後も小説家として芽が出ず、再就職の準備をしていたところ、『鴨川ホルモー』が新人賞を受賞。
一躍人気作家となったのです。大学入学から作家デビューするまでのエピソードは、さまざまな作品で生かされています。
万城目学作品は作者の経験をもとに描かれていることが多く、実在の地名や大学が登場します。
京都・大阪・奈良で学生生活を送った方や関西出身・在住の方は、とくに親しみが沸くのではないでしょうか。
また、それぞれの作品の舞台が近いこともあり、登場人物や出来事が少しずつリンクしています。
登場人物のその後を意外な場所で知ることができるのは、ファンにとってはうれしいサプライズですよね。
実在する場所を舞台に非日常的なストーリーが展開されるのも、万城目学作品の魅力です。
「自分が知らないだけで、この物語は実際に起こったことなのでは?」と思わせる、虚実入り乱れた不思議な世界観が楽しめます。
さらに、非日常的かつコミカルな内容でありながら、登場人物の心情がリアルで、繊細な心の機微が描かれていることも特徴です。
ユーモアにあふれた登場人物によるエンターテイメント性の高いやりとりが魅力ですが、ふとした場面にホロリとさせられます。
読者を笑わせつつ、アカデミックで上品な雰囲気をもつ作品が多いのも魅力です。
万城目学作品の選び方をご紹介します。
まずは有名な作品から読んでみたい方には、映像化された作品がおすすめです。
万城目学作品はドラマ化や映画化されているものが多く、読んだことはなくても聞いたことがある作品が1つはあるはずです。
京都や大阪にお住まいの方、かつて住んでいた方には、実在の地域を舞台とした作品がおすすめです。
よく知っている街を舞台にファンタジーが繰り広げられるなんて、なかなか出来ない読書体験ですよね。
世間の評判の高い作品を読みたい方には、文学賞受賞作や候補作がおすすめです。
『鴨川ホルモー』で第4回ボイルドエッグズ新人賞を受賞後も、万城目学作品は注目を集めています。
『鹿男あをによし』『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』『とっぴんぱらりの風太郎』『悟浄出立』は直木賞の候補作となりました。
2008年のデビュー作『鴨川ホルモー』から、2022年8月刊行の『あの子とQ』まで、万城目学のおすすめ小説を10作品ご紹介します。
万城目学のデビュー作です。
2浪の末に京都大学に入学したわたし(安倍)は、「京大青竜会」というサークルから声を掛けられます。
最初はサークル活動を嫌悪していたわたしでしたが、サークルで出会った同級生・早良さんの鼻に一目ぼれし、積極的に活動することに。
娯楽サークルだと思われた「京大青竜会」の実態は、オニを使役して戦う競技「ホルモー」をおこなうチームでした。
戸惑いながらもオニの存在を受け入れつつあったある日、わたしは早良さんが泣いている場面に遭遇して…。
主人公の安倍(安倍晴明)やライバルの芦屋(芦屋道満)など、登場人物には京都にちなんだ名前がつけられています。
名前の由来を探るのも、本作の楽しみ方の1つです。
ちょっとしたトラブルから研究室を追われた「わたし」は、奈良の女子高の物理教師として働くことになります。
期間は9月中旬から2学期末まで。不本意ながらも、ありきたりな教師生活が待っているはずでした。
ところが、慣れない土地で下宿暮らしを始めたわたしの前に、喋る鹿が現れます。
「ある道具を取り戻して日本を救え」という鹿の命令に従わなければ、鏡や写真に映るわたしの姿は鹿になってしまうのだそう。
徐々に鹿になっていく恐怖のなか、わたしが取った行動とは…?
最初から最後まで名前のわからない「わたし」と、見目麗しい教師仲間の「マドンナ」、なんだか裏がありそうな教頭の「リチャード」など、現代版・ファンタジー版の『坊ちゃん』とも言える作品です。
普段は純文学しか読まない方や、夏目漱石ファンの方にもおすすめします。
『鴨川ホルモー』の番外編である、6つのエピソードからなる短編集です。
大学3年生となった安倍がサークル仲間の高村とともに、ホルモーの仲間たちについて思いを巡らすプロローグから始まります。
『鴨川ホルモー』では描かれなかった他チームの人間関係や時代を超えたつながりなど、『鴨川ホルモー』のファンにはたまらない1冊です。
第6景に登場する料亭「狐のは」は、『鹿男あをによし』にも登場します。
どこまでもコメディ・タッチでありながら、不思議な切なさが心を打つ本作。
万城目学作品の魅力の1つである、アカデミックな雰囲気も堪能できます。
『鴨川ホルモー』に引き続き、登場人物の名前の由来を考えてみてくださいね。
大阪にある謎の団体「社団法人OJO」。
実地検査のため大阪を訪れていた会計検査院の調査官3名は、この団体の金銭の流れが30年以上も不明瞭であることを知り、調査に乗り出します。
「社団法人OJO」の本質に迫ったとき、大阪の機能が一斉に停止して…。
大阪都構想をモデルにしたとも言われている本作は、東京とは異なる歴史をもった大阪のロマンが詰まった長編小説です。
登場人物たちの、それぞれの大切なものを守る姿にホロリとさせられます。
男と女、東京と大阪、親と子の構図にも注目です。
本作も、登場人物の名前は歴史上の人物からとられています。
また、『鹿男あをによし』とのリンクも見逃せません。
小学1年生の女の子・かのこちゃんと、かのこちゃんの家で暮らす猫・マドレーヌ夫人の、何気ない毎日の物語です。
友だちになりたいあの子、立ちそうで立たない茶柱、余命わずかな老犬。
おだやかな日々の隙間に見え隠れする吉兆と別れの予感に揺れながら、かのこちゃんは少しずつ成長していきます。
じんわりと心に沁みるような、やさしい物語が好きな方におすすめです。
かのこちゃんの名前を漢字で書くと「鹿の子」。
かのこちゃんのお父さんは鹿と喋ることができて、今度子どもが生まれると鹿に報告したところ、鹿から勧められた名前なのだそうです。
鹿と会話ができるお父さんって、もしかして…。
作品内で言及はされていませんが、『鹿男あをによし』を彷彿とさせる作品です。
万城目学初の歴史小説です。
伊賀の国を解雇された忍者の風太郎は、近江を経由して京を目指します。
ニート忍者となった風太郎の前に現れたのは、謎の「ひょうたん」でした。
織田・豊臣の時代から、徳川の天下へ。
時代の大きなうねりに飲まれながらも精一杯生きた、一人の忍者の冒険劇です。
風太郎の物語は『プリンセス・トヨトミ』へと引き継がれていきます。
祖父が建てた雑居ビル「バベル九朔(きゅうさく)」の管理人をしている「俺」。
夢は小説家ですが、いまだ新人賞の一次選考すら通過したことがありません。
「そろそろ就職するように」と家族から口を酸っぱくして責められていたある日、「バベル九朔」に黒ずくめの美女が現れます。
さらに、ビル内で空き巣事件が勃発して…。
ただの雑居ビルだと思われた「バベル九朔」の秘密とは?
ビルから一歩も出ることなく繰り広げられる、新感覚のミステリー作品です。
単行本版と文庫本版で内容がやや異なるため、世界観に魅了された方はぜひどちらも読んでみてくださいね。
何百色も使われた派手なシャツ、小太りで下ぶくれの顔、調子のよいセリフ。
なんだかうさん臭い中年男の正体は、人間の幸せを願う恋愛成就の神様でした。
神様の日常は、神木の管理や願いを叶える人間の選定、昇進試験に部下の育成などなど大忙し。
日常業務をこなす神様のもとに、ある日、珍しいお客さまが訪れます。
中間管理職のような神様の「小狡さ」と、軽快な大阪弁がコミカルな作品です。
『かのこちゃん』や『バベル九朔』とのコラボレーションも見逃せません。
連作小説で1つ1つの作品は短いため、隙間時間での気分転換にぴったりです。
三つ子の梵天、梵地、梵人の特技は、泥棒、化石発掘、未来予知。
幼いころに両親を亡くした3人は、異能を駆使して生き抜いてきました。
ひょんなことから自衛隊に入隊した3人は、イラクに派遣されることに。
「何が起こっているのか、これから何が起こるのかわからないのにおもしろい」と評判の本作。
タイトルにもストーリーにも謎が多く、読者を惹き付けてやまない作品です。
超大作ならではの、濃密な読書体験が期待できます。
女子高生・嵐野弓子の正体は、現代を生きる吸血鬼。
しかし普段は意識することなく、平凡なティーンエイジャーとして生活しています。
そんな弓子の前に、トゲトゲで醜い正体不明の生き物「Q」が現れます。
弓子が17歳の誕生日の前に人間の血を吸わないか、監視をするのがQの仕事らしいのですが…。
独特な個性を発揮する親友・ヨッちゃんと弓子の友情がまぶしく、青春時代に戻りたくなります。
ポップでキュートな青春ラブコメかと思いきや、ラストで泣かされる作品です。
2024年2月9日に『八月の御所グラウンド』が発売予定です。非常に期待が高まりますね。
万城目学作品の魅力は、日常と非日常のバランスや個性豊かな登場人物たちにあります。
世界がつながっている作品も多いため、複数の作品を読めば読むほど、より深く万城目学作品の魅力を味わえるようになるでしょう。
映像化された作品から選ぶもよし、気になる地域から選ぶもよし。どの作品も折り紙つきのおもしろさですので、気になった作品を手に取ってみてくださいね。
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読書や漢字が専門のライター。図書館司書資格を保有しています。好きな本のジャンルは近代文学と短歌、日本語学。同じく本の虫である娘と、日々楽しく本を読んでいます。