小説を読むときに出てくる用語は、ミステリー特有のものが22語、小説全般に使われる基本用語が9語——この31語を押さえれば、書評やレビュー、帯の惹句でつまずくことはほとんどなくなります。
この記事では、五十音順に並べるのではなく「何を指す言葉か」で4つに分類してまとめました。分類ごとに見ていくほうが、言葉同士の関係が頭に入りやすくなります。
| 分類 | 語数 | 含まれる用語 |
|---|---|---|
| ジャンル・作風を指す | 9語 | 本格ミステリ/新本格ミステリ/イヤミス/バカミス/ライトミステリー/日常の謎/奇妙な味/ハードボイルド/館もの |
| トリック・仕掛けを指す | 7語 | クローズド・サークル/密室/不可能犯罪/叙述トリック/どんでん返し/倒叙ミステリ/読者への挑戦状 |
| 登場人物・捜査を指す | 4語 | 安楽椅子探偵/ワトソン役/アリバイ/プロファイリング |
| 作品の分類・ガイド | 2語 | フーダニット/このミステリーがすごい! |
| 小説全般の基本用語 | 9語 | 伏線/プロット/一人称と三人称/群像劇/短編・中編・長編/連作短編集/起承転結/ノベライズ/新装版 |
ジャンル・作風を指すミステリー用語9つ

「このミステリーはどういう種類の面白さなのか」を言い表す言葉です。作品を選ぶときに一番役立つグループでもあります。
本格ミステリ
トリックや謎解きの論理を中心に据えたミステリーを指す言葉です。本格推理小説とも呼ばれます。
手がかりが読者にも公平に示され、論理の積み重ねで犯人にたどり着ける構成が基本です。人物の内面や社会背景に重心を置く「社会派」と対比して使われることが多い呼び名でもあります。
新本格ミステリ
1980年代後半から1990年代にかけて登場したミステリー作品、およびその時期にデビューした作家を指します。綾辻行人『十角館の殺人』(1987年)が起点とされます。
トリック重視で、謎解きの知的な楽しさを前面に出す作風が特徴です。綾辻行人、有栖川有栖、法月綸太郎、貫井徳郎などが新本格の作家として挙げられます。
イヤミス
読むと嫌な気持ちになるミステリーの略称です。不快感、すっきりしない読後感、救いのない結末が特徴になります。
とくに知られているのが真梨幸子、湊かなえ、沼田まほかるの3氏で、イヤミスの三大女王と呼ばれています。後味が悪いとわかっていながら次を読んでしまう中毒性があります。
バカミス
おバカなミステリー、バカバカしいミステリーの略です。リアリティの追求より、エンターテインメント性やありえない展開そのものを楽しみます。
けなす言葉ではなく、むしろ愛着を込めて使われる呼び名です。作品例は「バカミスのおすすめ小説10選|ありえない展開を本気で作り込んだ傑作」でまとめています。
ライトミステリー
気軽に読めるミステリー小説を指します。コメディ要素が強くライトノベルのように読めるもののほか、ミステリーを扱ったライトノベルを指すこともあります。
「ミステリーは難しそう」という印象がある人や、普段あまり小説を読まない人の入口に向きます。
日常の謎
殺人などの事件が起きず、日常のちょっとした不思議を扱うミステリーのことです。日常ミステリーとも呼ばれます。三上延「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズなどが該当します。
英語圏の「コージー・ミステリー」と近い位置づけで語られることもありますが、両者は同じではありません。コージー・ミステリーは殺人が起きても過激な描写を避けて穏やかに描くジャンルであるのに対し、日常の謎はそもそも事件が起きない点が違います。
人間の心理に焦点が当たる作品が多いのも特徴です。作品を探すなら「日常の謎ミステリーおすすめ10選ランキング|人が死なない小説の入門」もどうぞ。
奇妙な味
論理的な謎解きよりも、ストーリーや人物の不気味さ、後味の悪さを味わうことに主軸を置いた作風を指します。江戸川乱歩が海外の短編を評する際に用いた表現に由来するとされます。
海外では1950年代から60年代にかけて流行し、その後は下火になりましたが、近年あらためて注目されつつあります。
ハードボイルド
もともとは暴力的な内容を簡潔な文体で描く文学作品を指す言葉ですが、ミステリーでは行動する探偵が主役の作品を意味します。
頭脳で解決する安楽椅子探偵とは正反対で、探偵自身が歩き、殴られ、危険に踏み込みます。代表作にダシール・ハメット『マルタの鷹』が挙げられます。
館もの(やかたもの)
古びた洋館や古城など、大きな屋敷を舞台に事件が起きる作品のことです。多くは連続殺人などの惨劇が発生します。
『十角館の殺人』をはじめとする綾辻行人の「館シリーズ」が日本の代表格です。謎解きに加えて、怪しげな住人や屋敷にまつわる由来が物語を彩ります。
トリック・仕掛けを指すミステリー用語7つ
「作者がどう仕掛けてきたか」を言い表す言葉です。ネタバレを避けつつ作品を語るとき、書評でよく使われます。
クローズド・サークル(closed circle)
孤島や吹雪の山荘など、外界と行き来できない閉ざされた空間で起きた事件や、それを扱った作品を指します。
逃げ場がないため、犯人は必ずその場にいるという前提が成立します。アガサ・クリスティ『オリエント急行の殺人』『そして誰もいなくなった』、綾辻行人『十角館の殺人』、森博嗣『すべてがFになる』などが代表例です。
密室
鍵のかかった部屋のように、外部から侵入できない状態の空間を指します。ミステリーの代表的な要素のひとつで、古くから使われてきました。
密室が出てくる作品では、犯人捜しに加えて「どうやって犯行を成立させたか」「どうやって密室から出たか」というトリックの解明も楽しめます。
不可能犯罪
常識では成立しないはずの犯罪のことです。密室殺人のほか、雪の上に足跡がない、衆人環視のなかで起きるなど、状況そのものが謎になっている型を指します。
叙述トリック
文章の書き方そのもので読者をミスリードする技法です。登場人物をだますのではなく、読者だけをだます点が特徴になります。
あえて詳細を書かない、性別や時系列を明示しないなど、読者の思い込みや先入観を逆手に取ります。仕掛けの性質上、作品名を挙げること自体がネタバレになりやすい用語でもあります。
どんでん返し
終盤で状況が一気にひっくり返ることを指します。真犯人が最初に疑われていた人物とは別だった、ある登場人物が実は別人だった、といった展開が典型です。
単なる驚かせではなく、張られていた伏線がすべてつながる快感が味わいどころ。物語のテーマを最後に浮かび上がらせるために使われることもあります。
倒叙ミステリ(とうじょミステリ)
犯人と犯行方法が序盤で明かされ、それを探偵役がどう崩すかを描くミステリーです。「刑事コロンボ」型といえばイメージしやすいかもしれません。
読者には答えがわかっているぶん、完全犯罪が綻んでいく過程そのものを楽しむ構造になっています。
読者への挑戦状
犯人が明かされる直前に、作中の人物(多くは探偵役)から読者へ「犯人はわかったか」と問いかけるページを差し込む技法です。読者の挑戦とも呼ばれます。
「手がかりはすべて提示した」という宣言でもあります。エラリー・クイーンの「国名シリーズ」、有栖川有栖の「学生アリスシリーズ」などで用いられています。
登場人物・捜査を指すミステリー用語4つ
安楽椅子探偵
現場に足を運ばず、人から聞いた情報を分析するだけで犯人を割り出す探偵を指します。捜査や立証は警察や助手に任せるのが一般的です。
アガサ・クリスティ『ミス・マープル』シリーズや、北村薫『円紫さんと私』シリーズなどが該当します。「安楽椅子探偵とは?読み方と意味・おすすめミステリー小説10選」もぜひチェックしてみてください。
ワトソン役
作品の語り手や、探偵の助手役を指す言葉です。ワトスン役とも書きます。コナン・ドイル『シャーロック・ホームズ』シリーズに登場する医師ワトソンに由来します。
探偵の推理を読者に噛み砕いて伝える、探偵の変わり者ぶりを引き立てる、といった役割を担います。推理力が探偵より劣るのは、読者と同じ目線に立つためです。探偵の直感に疑問を投げかけて議論を進める役でもあり、物語の骨格を支える存在といえます。
アリバイ(alibi)
事件発生時にその場にいなかったことを示す証明で、現場不在証明とも呼ばれます。ラテン語のalibi(他の所に)に由来する言葉です。
ミステリーでは、容疑者のアリバイをいかに崩すかが物語の軸になります。時刻表や証言、映像記録を使った「アリバイ崩し」は、日本のミステリーで長く親しまれてきた型です。
プロファイリング(profiling)
犯罪現場や被害者、遺留品などの情報から、犯人の性格や行動の特徴を推測し、人物像を絞り込む手法です。
作中では捜査を一気に進める道具として機能しますが、推定された人物像が常に正しいとは限りません。その不確かさ自体を物語の緊張感に変える作品もあります。
作品の分類・ガイドに関する用語2つ
フーダニット(ハウダニット・ホワイダニット)
「誰が犯人なのか」に焦点を当てたミステリーです。Who done it?(誰がやった?)を口語調に略した言葉で、フダニトとも表記されます。
事件が起き、人物のやりとりを通じて手がかりが示され、最後に謎が解ける——ミステリーのもっとも古典的な型です。派生として、犯行方法の解明に重きを置くハウダニット、動機の解明が中心となるホワイダニットがあります。
このミステリーがすごい!
宝島社が別冊宝島のムックシリーズとして発行しているミステリー小説のガイドブックです。「このミス」とも呼ばれ、年間ランキングや座談会が掲載されます。
2002年には新人作家を対象とした「『このミステリーがすごい!』大賞」が創設されました。第1回の大賞受賞作は浅倉卓弥『四日間の奇蹟』です。受賞作がベストセラーになることも多く、新しい書き手を探すときの目安になります。
小説全般で使う基本用語9つ
ここからはミステリーに限らず、小説を読むとき・語るときに出てくる言葉です。レビューや帯、解説で頻出します。
- 伏線… 後の展開のために、あらかじめさりげなく置いておく描写。回収されると「伏線回収」と呼ばれます
- プロット… 出来事の並べ方・組み立て。「あらすじ」が起きたことの要約であるのに対し、プロットは因果関係を含む設計図を指します
- 一人称と三人称… 語りの視点。「私」が語るのが一人称、外側から描くのが三人称です。叙述トリックは視点の扱いと深く関わります
- 群像劇… 主役を1人に絞らず、複数の人物の物語を並行して描く形式
- 短編・中編・長編… 分量による区分。厳密な定義はなく、出版社や文学賞の規定によって境目は異なります
- 連作短編集… 1編ずつ独立して読めるが、人物や舞台が共通し、通して読むと大きな流れが見えてくる短編集
- 起承転結… 物語の構成を4段階でとらえる考え方。もとは漢詩の構成法です
- ノベライズ… 映画・ドラマ・アニメなど、他媒体の作品を小説にしたもの。逆に小説が原作になる場合は「原作」と呼びます
- 新装版… 既刊を装丁や解説を新しくして出し直したもの。内容が加筆されている場合もあります
監修者の視点:用語を先に覚えると、読む速度が変わる
田中寛大大学院で研究をしていたころ、専門書を読む速度が上がった一番の理由は、頭がよくなったからではなく、その分野の言葉を先に覚えたからでした。用語を知っていると、読みながら情報を分類できるようになります。
ミステリーも同じで、これはクローズド・サークルだ、これは倒叙だ、と型が見えた瞬間から、作者がどこで勝負しているかを追えるようになります。全部を暗記する必要はありません。読んでいて引っかかった言葉だけ、そのつど拾っていけば十分です。
小説用語・ミステリー用語に関するよくある質問(FAQ)
- トリックや謎解きを重視したミステリー小説のジャンルを指す言葉はどれですか?
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「本格ミステリ」です。本格推理小説とも呼ばれ、手がかりを読者にも公平に示したうえで、論理の積み重ねによって犯人にたどり着く構成を基本とします。1980年代後半以降にこの流れを受け継いだ作家群は「新本格ミステリ」と呼ばれます。
- ミステリーと推理小説の違いは何ですか?
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ほぼ同じ意味で使われますが、指す範囲が違います。推理小説は謎解きの論理を中心にした作品を指すのに対し、ミステリーはサスペンス、ホラー寄りの作品、犯罪小説まで含む広い呼び方です。探偵小説という言い方もほぼ同義で使われてきました。
- イヤミスとはどういう意味ですか?
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読むと嫌な気持ちになるミステリーの略称です。すっきりしない読後感や救いのない結末が特徴で、真梨幸子・湊かなえ・沼田まほかるの3氏はイヤミスの三大女王と呼ばれています。
- 叙述トリックとは何ですか?
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文章の書き方そのもので読者をミスリードする技法です。作中の登場人物ではなく読者だけをだます点が特徴で、性別や時系列をあえて明示しないなど、思い込みを逆手に取ります。仕掛けの性質上、作品名を挙げること自体がネタバレになりやすい用語です。
- 小説の「伏線」と「プロット」はどう違いますか?
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伏線は後の展開のために先に置いておく個々の描写、プロットは出来事をどう並べるかという物語全体の設計図です。あらすじが「起きたことの要約」であるのに対し、プロットは因果関係を含んだ組み立てを指します。
- 安楽椅子探偵とはどんな探偵ですか?
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現場に足を運ばず、人から聞いた情報の分析だけで事件を解決する探偵です。捜査や立証は警察や助手が担当します。アガサ・クリスティ『ミス・マープル』シリーズ、北村薫『円紫さんと私』シリーズなどが代表例です。
用語がわかると、選ぶ精度が上がる
ミステリー用語22語と、小説全般の基本用語9語を紹介しました。イヤミスやバカミスのように、謎解きのタイプではなく読後感で分類する言葉があるのがミステリーの面白いところです。
用語がわかると、レビューや帯の一言から「この本は自分に合うか」を判断できるようになります。全部を覚える必要はないので、引っかかった言葉からこのページに戻ってきてください。










