中島らも(1952〜2004年)の代表作は、第13回吉川英治文学新人賞を受賞した『今夜、すべてのバーで』(1991年・講談社)と、第47回日本推理作家協会賞長編部門を受賞した『ガダラの豚』(1993年・実業之日本社)の2作です。
作風の幅がとても広い作家で、自伝的な私小説から長編ミステリー、ホラー短編集まであります。最初に手に取る1冊で印象が大きく変わるタイプの作家です。
以下では、受賞作2作を含むおすすめ小説6作品を、刊行年・出版社・作風とあわせて紹介します。読む順番の目安も最後にまとめました。
中島らものおすすめ小説6選【早見表】
| 作品 | 刊行年 | 出版社 | 作風 | こんな人におすすめ |
|---|---|---|---|---|
| 今夜、すべてのバーで | 1991年 | 講談社 | 自伝的長編 | 初めて中島らもを読む人 |
| ガダラの豚 | 1993年 | 実業之日本社 | 長編ミステリー | 分厚い物語を一気に読みたい人 |
| 白いメリーさん | 1994年 | 講談社 | ホラー短編集(9篇) | 短い話から試したい人 |
| こどもの一生 | 2006年 (集英社文庫) | 集英社 | ホラー長編 | 笑いと恐怖の落差を味わいたい人 |
| お父さんのバックドロップ | 1989年 | 学習研究社 | 短編集 | 家族の話で笑って泣きたい人 |
| ロカ | 2005年 | 実業之日本社 | 近未来小説 | 作家の到達点を見届けたい人 |
中島らもとは|コピーライター出身、2つの文学賞を受賞した小説家

中島らも(なかじま らも、1952年4月3日〜2004年7月26日)は、兵庫県尼崎市出身の小説家・エッセイストです。灘中学校・高等学校を経て、大阪芸術大学芸術学部放送学科を卒業しています。
印刷会社に勤めたあと、広告代理店でコピーライターとして働きました。文章で身を立てる入口が広告だったという経歴が、独特のリズムと言葉選びにつながっています。
受賞歴は次の2つです。
- 第13回吉川英治文学新人賞(1992年)/『今夜、すべてのバーで』
- 第47回日本推理作家協会賞 長編部門(1994年)/『ガダラの豚』
2004年7月26日、52歳で死去。没後も文庫や新装版で読み継がれている作家です。
中島らも作品の魅力は「笑い」と「恐怖」が同居すること

中島らも作品の中心にあるのは、波乱に満ちた私生活と、酒というテーマをユーモアに変換する筆致です。同じ一冊のなかで、声を出して笑う場面と背筋が寒くなる場面が隣り合っています。
もう一つの特徴は、社会の常識から外れた人間を突き放さない視点です。アルコール依存症、新興宗教、都市伝説といった重い題材を扱いながら、登場人物を見下ろす書き方をしません。一見すると不謹慎に見える語り口の下に、あきらかな思いやりがあります。
人間味あふれるユーモアや、生きやすさにつながる温かい視点を描いた関西ゆかりの文学をお探しの方は、田辺聖子の作品もあわせてチェックしてみてください。田辺聖子のおすすめ小説については、下記の記事で詳しく解説しています。

中島らものおすすめ小説6選

今夜、すべてのバーで|第13回吉川英治文学新人賞の受賞作
1991年に講談社から刊行され、翌1992年に第13回吉川英治文学新人賞を受賞した長編です。中島らもを1冊だけ読むならこの作品、といえる代表作にあたります。
主人公はアルコール依存症で入院した小島容。酒に溺れて命の危険にさらされた男が、同じ病棟の患者や医師と言葉を交わし、親友の姉に励まされながら、自分の状態を直視していきます。
作者自身の入院体験が下敷きになっており、「アル中小説」と呼ばれることもあります。ただし説教くささはなく、笑える会話のあとに冷たい現実が差し込まれる構成です。現在は講談社文庫の新装版でも読めます。
ガダラの豚|第47回日本推理作家協会賞 長編部門の受賞作
1993年に実業之日本社から刊行され、1994年に第47回日本推理作家協会賞(長編部門)を受賞した大長編です。超能力・占い・新興宗教という、現代人が引き寄せられがちな領域を正面から扱っています。
主人公はアフリカの呪術を研究してテレビにも出るようになった民族学者・大生部多一郎。8年前に長女を亡くしたことから本人はアルコール依存に陥り、妻の逸美は新興宗教にのめり込んでいきます。
妻を取り戻すため、大生部は奇術師と手を組む——という導入から、物語はアフリカへ、そしてテレビ番組を舞台にした決戦へと転がっていきます。文庫では全3巻。長さはありますが、ページをめくる速度が落ちない種類の長編です。
社会の闇や人間の暗部を描くスケールの大きなミステリー・エンターテインメントに惹かれる方には、太田愛の作品もおすすめです。太田愛のおすすめ小説については、下記の記事で詳しく解説しています。

白いメリーさん|9篇を収めたホラー短編集
1994年に講談社から刊行された短編集で、9篇を収録しています。恐怖と滑稽さが同居する中島らもの持ち味が、短い枚数で何度も味わえる一冊です。
収録作には、都市伝説に振り回される少女を描いた表題作「白いメリーさん」、呪いの家系を利用する姉妹の「クローリング・キング・スネイク」、人を殺してよい日が設定される「日の出通り商店街 いきいきデー」などがあります。
長編を読み切る自信がない段階でも入りやすいので、中島らもの世界観を試し読みしたい人に向いています。
こどもの一生|瀬戸内海の孤島が舞台のホラー長編
瀬戸内海に浮かぶ小島のセラピー施設を舞台にしたホラー長編で、集英社文庫に収録されています(文庫版は2006年刊行)。
島にレジャーランドを作る計画で訪れた2人の男が、治療と偽って施設に入り込みます。ところが施設にはすでに3人の患者がおり、薬と催眠によって計5人の意識が10歳の子どもへ退行していく——という筋書きです。
前半は童心に返った大人たちのやりとりで笑わせておいて、終盤で一気にホラーへ振り切ります。この落差そのものが読みどころです。
お父さんのバックドロップ|映画化された表題作を含む短編集
1989年に学習研究社から刊行された短編集で、子どものような性格の父親たちを主人公にしています。現在は集英社文庫で読めます。表題作は2004年に映画化されました。
表題作の主人公は小学生の下田くん。プロレスラーの父・牛之助と、うまく距離をつかめない関係にあります。「クマ殺しのカーマン」との一戦に挑む父の姿を、息子の目線で描いていきます。
ほかにもロックンローラー、落語家、動物園の園長、魚河岸の大将と、職業も性格もばらばらな父親が登場します。父と子の話で笑って泣きたいときの1冊です。
ロカ|2005年刊行の遺作
2005年4月に実業之日本社から刊行された、中島らもの遺作です。雑誌連載の途中で著者が急逝したため絶筆となりました。主人公は「ロカ」という名のダブルネックギターを持つ小説家・ルカ。
豪邸を売った資金と過去の印税でホテル暮らしをしている彼が、10代の女の子に心を寄せていきます。近未来を舞台にした私小説的な作品で、他の代表作とは手触りが違います。
最初の1冊には向きませんが、受賞作を読んで作家像がつかめたあとに読むと、たどり着いた場所が見えてくる作品です。
中島らもを読む順番|最初の1冊は受賞作から
作風の幅が広いので、順番を決めておくと迷いません。おすすめは次の並びです。
- 『今夜、すべてのバーで』……自伝的な題材で、作家の芯がいちばん見えやすい
- 『ガダラの豚』……エンターテインメント作家としての振れ幅を知る
- 『白いメリーさん』または『お父さんのバックドロップ』……短編で笑いとホラーの両面を試す
- 『こどもの一生』……長編ホラーで落差の大きさを味わう
- 『ロカ』……遺作で締める
長編が苦手なら、3番目の短編集から始めても構いません。1話が短いぶん、合う・合わないの判断が早くつきます。
監修者の視点:年月が経っても動き続ける本には共通点がある
田中寛大オンライン古書店を運営していた時期(2019〜2022年)、出品日が追える2,986件で見ると、出品から売れるまでの日数は中央値で37日でした。30日以内に45%が動き、半年動かない本はほぼ滞留在庫になります。
一方で、刊行から年数が経っても定期的に動き続ける本が一定数あります。亡くなったあとも文庫や新装版で読み継がれている中島らもは、その側にいる書き手だといえそうです。
どれから読むか迷うなら、受賞作の『今夜、すべてのバーで』か『ガダラの豚』を起点にすると、作風の振れ幅がつかみやすくなります。合わないと感じたら短編集に切り替えるのが早道です。
中島らもに関するよくある質問
- 中島らもの代表作は何ですか?
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『今夜、すべてのバーで』と『ガダラの豚』の2作です。『今夜、すべてのバーで』は1991年に講談社から刊行され、翌1992年に第13回吉川英治文学新人賞を受賞。『ガダラの豚』は1993年に実業之日本社から刊行され、1994年に第47回日本推理作家協会賞(長編部門)を受賞しています。
- 中島らもの小説はどれから読むのがおすすめですか?
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受賞作の『今夜、すべてのバーで』が最初の1冊に向いています。アルコール依存症で入院した男を描いた自伝的な長編で、作家の芯がいちばん見えやすい作品です。長編に抵抗があるなら、9篇を収めたホラー短編集『白いメリーさん』から試す方法もあります。
- 中島らもの遺作は何ですか?
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『ロカ』です。2005年4月に実業之日本社から刊行された近未来小説で、雑誌連載の途中で著者が急逝したため絶筆となりました。ダブルネックギターを持つ小説家ルカを主人公にしています。
- 中島らもはどんな経歴の作家ですか?
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1952年4月3日に兵庫県尼崎市で生まれ、灘中学校・高等学校を経て大阪芸術大学芸術学部放送学科を卒業しました。印刷会社に勤めたのち広告代理店でコピーライターとして働き、その後に小説・エッセイの執筆へ移っています。2004年7月26日に52歳で亡くなりました。
- 中島らもの作品は文庫で読めますか?
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読めます。この記事で紹介している6作品は、講談社文庫・集英社文庫のいずれかで刊行されています。『今夜、すべてのバーで』には講談社文庫の新装版もあります。
中島らもの小説は「1冊目の選び方」で印象が変わる
中島らもは、型破りな生き方に呼応するように、笑い・恐怖・依存という重い題材を同じ器に入れてしまう作家です。ホラー短編から自伝的な長編まで幅があるぶん、最初に選ぶ1冊で印象が決まります。
迷ったら受賞作の『今夜、すべてのバーで』から。短いものから試したいなら『白いメリーさん』からどうぞ。
小説を深く味わうための読み方については、小説の読み方のコツもあわせて参考にしてください。エッセイストとしての中島らもが気になった方は、おすすめのエッセイもどうぞ。










