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みなさんは自分の保身のために嘘をついてしまった経験はありますか。
人間のエゴイズム(利己主義)はとても醜く悲しいものですが、当たり前のようにわたしたちの周りに存在しています。
『藪の中』は、そのような人間模様を鮮明に描きだした作品です。
『藪の中』は芥川龍之介が1922年に「新潮」で発表した短編小説です。
「今昔物語集」が題材になっているといわれており、いわゆる「王朝物」の1つに数えられています。
芥川作品の中でも研究対象になることが多く、研究者たちによって多数の論文が書かれてきました。
また、1950年に黒澤明監督によって「羅生門」というタイトルで映画化されたことでも有名な作品です。
『藪の中』は登場人物が順番に語り手になって物語を進めていくという構成になっています。
検非違使からある殺人事件の証言を求められた木樵り・旅法師・放免・媼・多襄丸・眞砂(まさご)・金澤武弘の7人が事件の真相を語っていきます。
藪の中のあらすじを紹介します。
藪の中であの死骸を見つけたのは、わたしで間違いありません。
男は水干に烏帽子をかぶったまま、仰向けになって倒れていたのです。
胸をひと突きにされてからかなりの時間が経っていたようで、血はすでに乾いておりました。
太刀などは持っておらず、周りに馬もおりません。
ただ、そばにあった杉の木の下に縄と櫛が落ちていただけです。
たしかに、発見された死骸の男には昨日会っております。
男は太刀と黒い箙(えびら)に入れた弓矢を携えて、馬に乗った女と一緒に関山の方へ歩いていきました。
わたしが捕らえた男は、多襄丸という有名な盗人でございます。
多襄丸は黒い箙に入った征矢を17本もっていました。
これは死骸の男が持っていたものと同じでしょう。
多襄丸は女好きで有名でしたから、馬に乗っていた連れの女が無事であるかはわかりません。
あの死骸の男は、わたしの娘の夫である金澤武弘でございます。
彼は気立てのよい青年で、人の恨みを買うようなことは決してないはずです。
娘の眞砂は勝ち気な性格で、武弘以外に男を持ったことはありません。
武弘のことは諦めても、眞砂のことはどうしても諦めきれないのです。どうか娘を見つけてください。
あの男を殺したのはわたしです。
わたしは昨日あの夫婦を見た瞬間、女を奪おうと決心しました。
そして男だけを藪の中に誘い込み、不意を狙って杉の木に縛りつけました。
その光景を見た女は小刀を取り出しましたが、わたしはあの多襄丸です。
簡単に小刀を打ち落とし、女を手篭めにできました。
わたしが逃げようとすると女が腕にすがりついてきて「2人の男に恥を晒すのは死ぬよりもつらいので、あなたか夫かどちらか1人死んでください」といってきました。
その瞬間、なんとしてでもこの女を自分の妻にしたいと思ったのです。
男と太刀打ちをした末にわたしは勝利したのですが、その間に女の姿は消えていました。
おそらく助けでも呼びに行ったのでしょう。
わたしは男から太刀や弓矢を奪い去って、その場をあとにしました。
わたしが知っているのはこれだけです。
覚悟はできていますから、どうせなら極刑に遭わせてください。
わたしは杉の木に縛られた夫のもとに駆け寄ろうとしたとき、盗人に蹴飛ばされました。
その瞬間に、夫の目がわたしに対して冷たく蔑んでいることを感じたのです。
わたしはそのまま気を失ってしまい、目を覚ますと盗人の姿はありませんでした。
夫は杉の木に縛られたまま冷たい光を目に宿しています。
わたしは夫を殺し、自分も死のうと思いました。
夫はそのようなわたしの姿を見て「殺せ」というので、ほとんど夢うつつのうちに小刀を夫の胸に突き刺して、また気を失ってしまいました。
目を覚ますと、夫が息絶えていたので縄を解いてやったのです。
わたしは何度も死のうとしたのですが、死にきれずに生きています。
盗人の手篭めに遭い、夫を殺したわたしは、いったいどうすればよいのでしょうか。
盗人は妻を手篭めにすると、そのまま妻を説得しはじめました。
盗人の言葉にうっとりした妻の顔が、今までにないくらい美しかったことを覚えています。
最終的な妻の答えは「どこへでも連れていってください」でした。
そのうえ盗人に「夫を殺してください」と懇願したのです。
盗人は腕にすがりついている妻を蹴飛ばすと、わたしに「あの女を殺すか?」と問いかけてきました。
わたしはこの言葉だけで、盗人の罪を許してやりたいと思います。
しかし、妻はわたしがためらっている間に藪の奥へ逃げていってしまったのです。
盗人はわたしの縄を切ると、太刀と弓矢を取り上げて去っていきました。
わたしは妻が置いていった小刀を自分の胸に突き刺し、そのまま永久に闇の中に沈んでしまったのです。
『藪の中』は登場人物それぞれの一人称で物語が進んでおり、すべての登場人物は「信用できない語り手」として作品の中に存在しています。
7人の証言の中でも注目すべきは、多襄丸・眞砂・武弘の証言です。
3人は事件が起こった際同じ現場にいたにもかかわらず、異なる証言をしています。
ここでは多くの矛盾点が存在する『藪の中』に隠された作者の思いを読みとっていきます。
まず、武弘殺害の真相について3人の証言を整理しましょう。
3人の証言に共通するのは、眞砂の言動によって武弘が死ぬことになったという点です。
眞砂は武弘の目の前で多襄丸に手篭めにされ、「死ぬよりもつらい」状況に陥りました。
彼女は夫を殺害したのちに自分も死ぬつもりであったと証言していますが、作中では行方不明のままになっています。
一方で多襄丸と武弘は、眞砂がどちらかの男と一緒になって生きていく意志を持っていたと証言しているのです。
作品の性質上、眞砂の言動の真相はわかりませんが、ここに作者の思惑が色濃く出ていると考えられます。
作者は、男である多襄丸と武弘に対して女である眞砂の証言をずらすことによって、眞砂に疑いの目を向けるように読者を操作しているのです。
作者は生涯にわたって「女」という生きものに翻弄され続けました。
そして、女のエゴイズム(利己主義)に対しては、人一倍強い憎悪の念を抱いていたのです。
美しい容姿に強い心を持った眞砂という女にすべての罪を着せることで、作者は自分自身の過去と闘っていたのかもしれません。
武弘殺害の真相をめぐって登場人物たちのエゴイズムがあらわになっていく『藪の中』は、読めば読むほど真相から遠のいていく感覚に襲われます。
3人の当事者が「武弘を殺したのは自分である」と証言したのは、周囲の同情を引くためだったのでしょう。
人間は誰に習うわけでもなく、いつのまにか自分を守る術を身につけているものです。
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金沢大学の文学部で近代文学を専攻していました。在学中の読書量は、年間約250作品を超えています。好きなジャンルは純文学とイヤミスで、作中から自分独自の解釈を生み出すことが私の読書の楽しみです。