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『太平記』のあらすじとは?主な登場人物やおすすめの本についても紹介
『太平記』を読もうとしても、難しいと感じる人も少なくありません。『登場人物が多く、話の流れがわからない』、『寝返る武将が多く、南朝方か幕府側か理解しづらい』など。本記事では『太平記』の特徴やあらすじについて紹介していきます。
『太平記』の特徴
『太平記』は、一般的に全40巻。(ただし、後醍醐天皇が崩御した後の頃を記録した巻22は、1500年代には欠落したようです。南朝や室町幕府について都合の悪いことが書かれているために、抹消されたのではと推測されています。)書名には『天下太平の世の中になるように』との願いが込められているようです。
文中では、儒教(大義名分)や仏教(因果応報)の教義の影響を受けています。この場合の大義名分とは、君主(天皇)に対して忠誠を尽くすことが、仕える者の守るべき道理であるということ。因果応報は、自分の行いが間違っていれば悪い結果になり、逆に正しいことをすれば良い結果が返ってくるということです。
中国の文学作品『三国志演義』のエピソードを引用して脚色したものもあるようです。敗者が勝者を呪うと信じられていたためか、怨霊が出る場面も目立ちます。
鎌倉時代末期から室町時代前期が舞台
『太平記』の舞台となる年代は、後醍醐天皇の即位(1318年)~細川頼之が管領(幼少の足利義満の補佐)に就任する(1368年)までの50年間です。時代で表すと、鎌倉時代末期~室町時代前期頃のこと。大まかに、以下の通り3部に分けられます。
- 第1部 後醍醐天皇の即位~鎌倉幕府滅亡(巻1~巻11)
- 第2部 後醍醐天皇による親政(建武の新政)~後醍醐天皇の崩御(巻12~巻21)※巻22は欠落
- 第3部 南朝と室町幕府の混乱~足利義満の家督相続(巻23~巻40)
太平記の作者と成立年代は不明
『太平記』の正確な成立年代と作者はともに不明。小島法師(こじまほうし)という僧侶が制作者の1人だと伝えられていますが、よくわかっていません。1300年代には巻21(後醍醐天皇の崩御し、南朝では後村上天皇が即位)くらいまで完成していたといわれています。
他に『太平記』の編纂や改訂に関わったと考えられている3人を紹介します。
- 円観(えんかん)…天台宗の高僧
- 玄恵(げんえ)…南朝の後醍醐天皇や室町幕府と深い関わりがある僧侶
- 細川頼之(ほそかわよりゆき)…室町幕府3代将軍、足利義満の管領
注…足利義満自身も改訂に関わっていたのではないかという意見もみられます。
武士の兵法書として読みつがれる
鎌倉幕府の終焉から足利義満が将軍に就く時期までをまとめた『太平記』は、戦国時代~江戸時代の武将にとって、必読の兵法書の1つでした。武将が自筆で写本をする、配下の武士に僧侶による読み聞かせの会を開くなどの記録が残されています。
戦国時代に布教のため来日した宣教師が『太平記』を読み、日本の歴史や人々の考え方について理解を深めたともいわれています。江戸時代には大量に印刷されて人気となり、一般の民衆に広まっていきました。
主な登場人物
『太平記』の主な登場人物を4人紹介します。太平記の文中では、下記のような人物として描かれますが、ある程度誇張されている部分もあるようです。
- 後醍醐天皇…古来の天皇を中心にした政治を理想とし、鎌倉幕府執権の北条氏から政権を奪還(建武の新政)。足利尊氏と対立後に朝廷を追われ、吉野に南朝を樹立する。武士を軽んじる傾向がある。
- 足利尊氏(高氏)…源氏の武将。執権(北条氏)の横暴に我慢ができず、後醍醐天皇に協力。朝廷側の武士を軽視する態度に失望。北朝を支援して征夷大将軍に任命される。後醍醐天皇と袂を分かっても、敬意を持ち続ける。
- 新田義貞…源氏の武将(足利氏よりも家格は下とみられる)。鎌倉幕府の倒幕に関わる。後醍醐天皇を支持し、足利尊氏とは対立。南朝の総大将として生涯を終える。
- 楠木正成…兵が少ないながらも善戦をして後醍醐天皇の信頼を勝ち取った武将。公家にあしらわれながらも最期まで南朝を支える。『太平記』では三国志演義で知将とされる諸葛亮孔明に例えられ、褒める記述が多い。
太平記のあらすじ(3部構成)
『太平記』のあらすじを、3部構成に分けて解説します。
第1部『後醍醐天皇即位~鎌倉幕府滅亡』
1318年に後醍醐天皇が即位しました。鎌倉幕府の決め事で、実子を天皇にできず不満を感じていて、倒幕を決意します。計画が発覚し、陣を敷いた笠置山も落城。味方となった武将、楠木正成も赤坂城が落ちて敗走します。1332年、天皇は隠岐の島に流罪が決定しました。
鎌倉幕府の14代執権、北条高時は病気がちで政務もおろそかにして田楽にうつつを抜かす愚か者と評判。冷遇されている御家人や、平氏の北条氏と相反する源氏の足利氏や新田氏には我慢がならない日々が続いていました。そのような情勢の中、楠木正成が挙兵し、後醍醐天皇も隠岐からの脱出に成功します。
続々と朝廷の味方をする武将が増え、足利高氏や新田義貞も倒幕を決意。1333年に鎌倉幕府は滅亡し、北条高時以下北条方の味方についた武将は自害します。後醍醐天皇は京都に帰り、建武の新政が始まりました。足利高氏は、天皇の名前を賜り『足利尊氏』と改めます。
第2部『建武の新政~後醍醐天皇崩御』
建武の新政が始まった翌年、天皇に協力した武士でも政治の中枢から追いやられ、公家中心の政治について不満の声が上がり始めます。足利尊氏は天皇を尊敬しつつも、武士の声に耳を傾け、武家をまとめる中心的な存在に。1335年、北条時行(北条高時の息子)が起こした中先代の乱を足利尊氏が制圧。朝廷側にとって、足利尊氏の存在は脅威となっていきます。
同年に新田義貞が天皇の命を受けて、足利尊氏の討伐に向かいます。1336年に朝廷側の新田、北畠、楠木の連合軍に足利軍は敗走。しかし、九州から軍勢を立て直し、湊川の戦いで楠木正成を滅ぼします。尊氏は京都に入り、光明天皇(北朝)を即位させました。後醍醐天皇は吉野に向かい、天皇の位を譲らずに朝廷を分裂させ、新たに南朝を立てます。
1338年に、足利尊氏は光明天皇からの任命で征夷大将軍に就任。室町幕府を始めました。新田義貞は足利家の一門、斯波高経との一戦を交えて戦死します。南朝方は劣勢に立たされる中、1339年後醍醐天皇が崩御し、後継に後村上天皇が即位しました。
第3部『南朝と幕府の混乱~足利義満の家督相続』
1345年、足利尊氏は後醍醐天皇の供養のために天竜寺を建立。1348年に足利家の執事、高師直が楠木正成の嫡男正行と戦って勝利するなどし、南朝は勢いが衰え始めます。
1350年に足利尊氏の弟、直義と高師直が不和。尊氏が師直側の味方をしたため、直義が南朝と手を組み挙兵する観応の擾乱が起こります。高師直は多くの人に恨まれ、直義側の家臣に殺害。尊氏は南朝と和睦をして1351年に混乱を収めました。直義も急死し、後味の悪い結末に。
幕府の混乱を突いて、北畠氏と楠木氏の南朝方が京都を奪還しようとします。1352年~1355年にかけて、山名氏や尊氏の庶子直冬による戦いがありましたが、尊氏と嫡男の義詮が阻止。1358年には戦いで矢傷を負った尊氏が、背中の腫れ物がもとで病死します。足利義詮が2代めの室町幕府の将軍に就任。
足利家の家臣、仁木義長、細川清氏、畠山国清による執事の就任争いが起き、失脚するたびに南朝方に下って幕府に謀反を起こします。1362年、細川清氏と争った細川頼之が勝利。南朝方の大内弘世、山名時氏、仁木義長が幕府と和睦します。1367年に将軍義詮が病死。細川頼之が管領に推挙され、3代目の将軍となる足利義満の補佐役に就任します。
『太平記』詳しいあらすじを理解できるおすすめ書籍
あらすじを詳しく知りたい場合、主なエピソードを現代語に訳した『太平記』の書籍を読むのがおすすめ。古来から伝わる原本は、漢文表記で読むのが非常に困難です。以下の2冊の本を紹介します。
- 『太平記 ビギナーズクラシックス 日本の古典』 (角川ソフィア文庫)
- 『太平記(上下巻) 』(光文社古典新訳文庫)
『太平記』のあらすじで南北朝や室町幕府の流れを理解しよう
『太平記』のあらすじを理解するには、主な登場人物に注目して、話の流れを確認するとわかりやすいです。漫画や映像化された作品を読むのもいいかもしれません。書籍の中には、主な話を取り出して現代文に訳した内容のものもありますので、一度確認してみるのもおすすめです。