作者の自信が伝わる『読者への挑戦状』。本記事では作者への挑戦状が記載された小説の解説と、おすすめの作品を紹介します。
目次
『読者への挑戦状』が付くミステリーとは?
『読者への挑戦状』が書かれている推理小説(ミステリー)には、トリックに整合性がある、本格もののミステリーが多数あります。ほかにどのような特徴が見られるのでしょうか。
なぜ『読者への挑戦状』を載せるのか?
作者はどのようなわけがあって『読者への挑戦状』を載せるのでしょうか。考えられる理由としては以下の通りです。
- すべての手がかりを明らかにして読者にフェアであると示せる。
- 開示されたアリバイやトリックなどが論理的で、読者を正解に導ける。
- まるで探偵と推理合戦をしているように、読者が楽しめる。
『読者への挑戦状』を記載するタイミングは、事件が終わり解決パートに入る直前に知らせるものがほとんどです。なかには、冒頭に載せたり、文章の途中で問いかけたりする小説もあります。
懸賞小説として利用
出版社や新聞社の連載では、懸賞小説に利用することもありました(坂口安吾『不連続殺人事件』)。真犯人や犯行の理由を明記させて、見事に正解した人に賞金を送ったとのことです。熱心なミステリーマニアの間で、大いに盛り上がったでしょう。
ミステリーのジャンルは『フーダニット(犯人当て)』が中心
ミステリーの中でも『フーダニット(英語で”Who done it?”)』が中心。日本語に訳すと『誰が犯人か?』です。すでに犯人がわかっている倒叙ミステリーの場合は、犯行の動機や、どのようなトリックを用いて犯行におよんだのかを、読者に当てさせることもあります。
『読者への挑戦状』のミステリー!国内の小説10選!
国内のミステリーの中から10選紹介します。
『蝶々殺人事件』(横溝正史)
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元捜査課長、由利麟太郎シリーズの長編。終戦後に昭和12年の歌劇団の殺人事件を振り返る本格ミステリー。歌劇団のソプラノ歌手、原さくらが行方不明に。薔薇の花が敷きつめられたコントラバスケースの中から遺体で発見。団員のアリバイと動機、謎めいた若い男性の姿、犯行後どのようにケースを運んだのか、多くの謎に由利探偵は頭を悩ませます。
『invert 城塚翡翠倒叙集』(相沢沙呼)
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死者の念から事件を解決するという設定の霊媒探偵、城塚翡翠シリーズの連作短編集です。倒叙もので犯人はすでに判明していますが、読者に挑戦をしたり、ヒントを出したりして、アリバイ崩しや犯行の証拠などがわかるか問いかけています。話の流れを切らない形で読者への挑戦状を提示していて、読みやすいです。
『人形はなぜ殺される』(高木彬光)
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法医学者の神津恭介の探偵シリーズ。アマチュアのマジシャン達が発表会をしている中、ギロチンの遺体の代わりに、人形の首が発見されます。告発状や予告状が届き、連続殺人事件が勃発。困惑する神津にある人物の言葉が解決のヒントとなります。
『体育館の殺人』(青崎有吾)
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裏染天馬シリーズの一作目で、第22回鮎川哲也賞受賞した小説。密室状態の体育館で、高校の放送部の部長が遺体で発見される事件が。犯行時、体育館に居合わせた女子卓球部の部長に容疑がかかりますが、彼女を信じる部員は学校内の天才という裏染天馬に解決を依頼。エラリー・クイーンの作品のように、論理的な推理が好きな人におすすめです。
『星降り山荘の殺人』(倉知淳)
一見、雪に囲まれた秩父の山荘を舞台にした連続殺人事件の犯人当て、クローズドサークルものの本格ミステリーという印象を受ける小説。章段のタイトルのように、それぞれの冒頭にその章を要約した文章が書かれています。1つの文章で登場人物の立場がひっくり返るのが見事。叙述トリックが好きな人に好まれるようです。
『硝子の塔の殺人』(知念実希人)
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13年前の事件や白骨死体が見つかった、いわくつきのスキー場の跡地に建つ塔で起こる連続殺人事件が舞台。館の主の神津島は、自らのコレクションを収蔵した展望室付きの硝子の塔を建て、さまざまな職業の人を招きます。神津島の殺害を皮切りに次々と起こる事件。主の主治医と探偵の女性が謎解きをしようと…。作中に他の作者の推理小説の話が出るため、未読の人は注意が必要です。
『月光ゲーム Yの悲劇’88』(有栖川有栖)
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エラリー・クイーンの影響を受けた『学生アリスシリーズ』の一作目。大学の推理小説研究会のメンバーが登場し、クローズドサークルものを扱うのが特徴。推理小説研究会は夏休みのキャンプ場で別の学生たちと知り合いましたが、女子学生が失踪。下山を試みたところ、噴火が発生し山に閉じ込められてしまいます。数日後、刺殺体とともに『Y』のダイイングメッセージを発見。救助を待つ推理研究会の部長、江神は事件の真相を解明しようと…。
『占星術殺人事件』(島田荘司)
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占星術師の御手洗潔が探偵役のシリーズ一作目です。二・二六事件が起こった同日に、6人の若い女性が殺害されてバラバラにされる猟奇的な殺人事件が発生。遺書には星座に合わせて切り取り、それぞれを合わせると完璧な女性『アソート』が完成するというものでした。40年が経過し、一人の女性が御手洗潔のもとへ刑事の父が書いた手記を持ち込み、事件の解決を依頼します。
『名探偵はもういない』(霧舎巧)
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自称犯罪学者の木岬と、彼の義弟、小学生の敬二は、雪崩で先を進めなくなり、ペンションに足止めをくうはめに。さまざまな事情のある客(著名な探偵も)が宿泊する雪の山荘で連続怪死事件が発生します。設定はクローズドサークルのように感じられますが、王道のミステリーとは少しずれがあるおもしろい作品です。
『金田一少年の事件簿 小説版 オペラ座館・新たなる殺人』(天樹征丸)
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コミックやアニメのノベライズ本のシリーズです。設定が変更されているところもあり、作品を見た人でも楽しめます。以前事件のあった孤島のホテルで、新劇場のこけら落とし『オペラ座の怪人』が上演。しかし、ファントムと名のる謎の人物により再び惨劇の舞台となってしまいます。不穏な劇団員や、自殺したオーナーの娘の謎なども複雑にからみ、金田一一は、友人の七瀬美雪とともに犯人を追うことに。
国外の『読者への挑戦状』作品を紹介!
国外の読者の挑戦状が載った作品は、エラリー・クイーンが有名です。ほかの作者についても紹介します。
エラリー・クイーンの作品について
エラリー・クイーンは、論理的な手がかりと謎解きが特徴のクイーンの初期~中期の作品に読者への挑戦状が付いています。国名シリーズ(『シャム双生児』は記載なし)と『中途の家』の9作品は以下の通り。
- ローマ帽子の謎…ローマ劇場の殺人事件。被害者のシルクハットの紛失が解決につながる。
- フランス白粉の謎…フレンチ夫人の遺体がデパートで発見。白い粉は加害者の指紋を消すために使用。
- オランダ靴の謎…オランダ記念病院で創立者が死亡。補修された謎の靴が発見される。
- ギリシア棺の謎…ギリシャ系の大富豪が亡くなり遺言書が紛失。捜索するうち前科者の絞殺遺体が見つかる。
- エジプト十字架の謎…丁字路に、頭部を切り取られたエジプト十字架形の遺体が取り付けられる事件が発生。
- アメリカ銃の謎…乗馬ショーで団長が撃たれた。被害者を含む出演した団員のアメリカ銃は凶器ではなく…。
- チャイナオレンジの謎…大富豪を訪れた男。中国のオレンジを盛った部屋に通され遺体で発見される。
- スペイン岬の謎…スペイン岬の殺人事件。被害者はなぜ服を身に着けていなかったかが解決のポイント。
- 中途の家…拠点の途中にある家で、二重生活を送る被害者。彼はどちらの人間として殺害されたのかを探る。
入手が困難な3作品
国外の作品では、ほかに読者への挑戦状が付いたものがあり、3作品を紹介します。いずれも古い作品で、日本では入手困難です。
『或る豪邸主の死』(J・J・ コニントン)
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はじめて読者への挑戦状を載せたミステリー。冒頭に読者への挑戦状が載せられています。主人公は小さな田舎町の治安判事。豪邸の主人が屋敷で殺害されて発見されます。被害者は女性をストーカーしたり、犯罪に関わっていると疑いを持たれたりと評判が悪く、遺体を発見した治安判事の捜査は困難を極めます。
『服用禁止』(アントニイ・バークリー)
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ロジャー・シェリンガムのシリーズで有名な作者です。しかし、個性的な探偵は登場せず、軽妙な雰囲気は少々控えめ。殺人と突然死について語った男性が、数日経って亡くなってしまいました。中毒なのか、殺人事件であるのかわかりません。検死で明らかになったことから、次々と意外な事実が判明し、話が展開していきます。
『読者よ欺かるるなかれ』(カーター・ディクスン)
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H・M(ヘンリー卿)が不可能殺人を暴くシリーズ。『読者への挑戦状』とは異なりますが、文中のところどころに読者に向けて警告を載せています。騙されないためのヒント、トリックを見破る手がかりなど。読み飛ばさないように注意が必要です。女性作家が招いた呪術師が彼の力を信じない作家の夫に念を送って殺害。その後、作家自身も殺されてしまい、連続殺人はおもわぬ方向に…。
『読者への挑戦状』作品は謎解きを楽しみたい人におすすめ!
『読者への挑戦状』が載った小説は、登場人物になったつもりで謎解きを楽しみたい人におすすめです。ただし、作品によっては、過去の名作について言及していることがあるため、ねたばれはぜったいに避けたいという場合には注意しましょう。